2024年2月9日金曜日

EASY FIGHT

EASY FIGHT/堀口恭司

 堀口恭司の自伝ということで読んでみた。戦極、DREAMの低迷期に見ることを止めてしまった総合格闘技を再び好きにさせてくれたのは彼のRIZIN参戦の影響が大きい。ゆえに楽しみにしていたが思っていた内容と違う感じが否めず、そこまで楽しめなかった。本著のターゲットは格闘技ファンというより、もっとライト層向け、さらにはカルチャーから何か自己啓発的なものを抽出したい衆向けなんだろう。幻冬舎からの発行で編集に箕輪厚介という時点で察する部分はあったにせよ悲しかった。

 本人が直接書いたのではなくインタビューを書き起こしたものと思われる。Q&A式ではなく彼の一人称で自分の生い立ちや試合、最近の格闘技業界について書かれている。RIZIN参戦前の経歴は知らないことが多くオモシロかったし、さらに試合時の心境などはRIZIN Confessionsを見ているようで興味深い内容が多かった。ただ読んで気づいたこととして、自伝より評伝の方が好きだなということ。主観である自伝の醍醐味として外部から見えない当人氏から知らない情報や感情などがあるが、本著ではその主観を使って彼の精神論が繰り返し登場する内容に辟易した。

 格闘技と新自由主義の相性は抜群であり「やるやつこそが正義」というテーゼを掲げた上で彼の口から格闘技に対する精神的なアプローチを繰り返し引き出していた。当然彼の本心だとは思うものの、それは見せ方次第で良い風にも悪い風にも捉えられる。あくまで主観だが「ごちゃごちゃ考えずにjust do it」的な物言いが正直苦手だった。

 彼は泰然自若であり本著内でも感情をコントロールすることによるパフォーマンスの向上の話が何度も出てくる。普段の試合前の煽りは少なくリング上で「最強」を誇示してくれるからこそ好きな格闘家だ。しかし本著内では後半にかけて他者、特に朝倉兄弟、那須川天心への言及が結構多くてガッカリした。先述のとおり彼は聞かれてるから答えているのだろうと推測できるものの、一人称の文体なので、まるで彼が自分から現状の格闘技について小言を言っているように見えてしまうのが本当にもったいない。そういったくだらない争いに巻き込まれたくないから自分でガチの実力派団体を旗揚げしているわけで、彼が最近の格闘技界隈の不良優遇や過剰なSNS煽りについて踏み込んで、こうやって残る活字でコメントする必要もなかったはず。読み手を煽りたい気持ちも理解できるけど、堀口恭司のキャラクターと一致していないから残念だった。とはいえ彼のことは引退までずっと応援していきたい。この本を読むよりも以下の動画を見る方が100倍は彼のことを知れると思う。


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