2023年7月31日月曜日

黒き荒野の果て

 

黒き荒野の果て/S.A. コスビー

 エンタメ小説を読みたいなと思って以前にチェックしていた本作を読んだ。アメリカの近代ノワールとしてめちゃくちゃオモシロかった。こんなん即映画化されるだろうなと思いながら読んでたら、やはり映画化されるらしい。ここまでハードな環境ではないとはいえ、父となった今ではファーザーフッドについて考えさせられる作品でもあった。

 訳者あとがきにもあったように物語の大筋は非常にベタ。しがない自動車整備工場を営む男が元裏社会の人間で、凄腕ドライバー。足を洗ったつもりだったが、そうは問屋が卸さないということでしがらみ、暴力の渦に飲み込まれていくというもの。どこにでもありそうな話なだけど、本著が特別なのは南部のアフリカンアメリカンが主人公であること、あとは著者のとんでもない描写力と細かい設定の巧さ。アフリカンアメリカンが直面している過酷な現実が細かく描写されており、そのストラグルの過程でとんでもない量の血が流れるところが圧巻。主人公が最初から無敵過ぎる問題はあるとはいえ、自身以外の身に降りかかる不幸の量もハンパじゃない。ゆえに見どころが途切れなく続き、最後の方は飲み食いも差し置いて読み耽っていた。またカーアクションの描写がとてもスリリングだし、思いも寄らない設定もあいまって楽しんだ。もう一作、同じ著者で翻訳されたものがあるので読みたい。

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