2023年7月7日金曜日

チョーク!

チョーク!/チャック・パラニューク

  早川書房のセールでチャック・パラニューク作品も安くなっていたので読んだ。前から読みたかったけどプレ値で読めなかったところ、いつのまにか電子書籍化されていて大変ありがたい…それはさておき本作もめっちゃチャック・パラニュークな作品でオモシロかった。読み進めるの大変なところもありつつ彼ならではの現代への考察が含まれていて興味深い。元は2001年のリリースだけども今でも十分通じるような風刺が多く含まれていた。

 主人公が医学部中退でSEX中毒というなんとも言えない退廃的な設定。彼のアイデンティティの揺らぎを中心に話がひたすら進んでいく。主にはバイト先の話、入院している母親とその病院の話。時系列としては子どもの頃と現在をチャプターごとに交互に語っていくようなスタイルなので最初は混乱しやすい。タイトルにもなっている「チョーク」の設定がとにかくオモシロかった。レストランで食べ物をわざと自分で喉に詰めて周りの客に助けさせる。その客は一躍ヒーローとなり世間から脚光を浴びることになり、承認欲求が満たされたパトロンとして彼に定期的に連絡を取り小切手を送ってくる…この手口をそこかしこで繰り返して金を稼ぐ。こんないじわるなことをよく思いつくなと思う一方で、そのありがた迷惑を含む善意で満たす承認欲求というのは今のSNSにそのまま当てはまる話でもあり、彼の先見の明に脱帽するばかり。(人間が進歩していないのか) 他にもウオッと思ったラインを以下引用。

私たちは自分が理解できないものとは共存していかれない。何かを説明できなければ、その何かをただ否定する

私の世代は、私たちはいろんな物事を笑いものにしたけれど、そのことで世界がよりよい方向に動き出してはいない」母は言う。「他の人々が創り出したものを批判するのに忙しくて、私たち自身はごくごくわずかなものしか創り出してこなかった」

僕らはすべてのものにラベルを貼り、説明をつけ、解剖せずにはいられない。それが絶対に説明不可能なものだとしてもだ。たとえ神でもだ。〝無害化された〟はふさわしい言葉ではないが、頭に浮かぶ一つめの言葉だ。

 代表作のファイト・クラブは資本主義や消費社会に対して挑んだ小説だけど、本著はアイデンティティにフォーカスして、その自己認識はどうなんだ?と繰り返し問う内容だと感じた。チャック・パラニュークは読むのしんどいけど、読後感は彼だからこそというものがあるのでセールで買ったもう一冊も楽しみ。

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