鋼鉄都市/アイザック・アシモフ |
ハードなSFを読みたいなと思って初めてアシモフの小説を読んでみた。SFを積極的に読み始めたのはここ数年でこういったSFは果たして読めるのかと不安に思っていたが全くの杞憂で思った以上にエンタメ性が高くオモシロかった。
タイトルのとおり人類が要塞のような大きな都市に住むようになり、都市とその外側が明確に区別された世界が舞台となっている。さらに宇宙人の住む街もそこには存在して、ある宇宙人が地球人に殺されたのではないか?という事件が大筋のサスペンス仕立て。主人公は地球側の捜査官であり、宇宙側も捜査に参加したいということで見た目が人そっくりのロボットを送り込んでくる。この二人によるバディ刑事物語なのが本当に意外だった。その捜査を進める中で登場人物たちが生きる世界の状況が紹介されるのだが、そこがSF仕立てとなっている。なのでタイトルや作者のネームバリューからするとど真ん中のSFというムードを感じるが、ミステリー好きの人も楽しめる門戸の広さが特徴的だ。ただミステリーとしての完成度はご都合主義が否めず、最後も日本の警察よろしく自白に頼る部分があるので微妙だった。とはいえタイムリミットを用意したり、前フリとして推理を空振りさせたりと仕掛けは用意されているので読んでいる間の犯人探しは楽しめた。
本作ではロボットは人間と代替可能かどうか?が通底するテーマとなっている。ロボットに対して嫌悪感を抱く層が本著の書かれた70年代から懐古主義扱いされている点に先見の明を感じた。人間が懐古する気持ちを外側へ開拓する気持ちにベクトルを巧みに変えていこうとする宇宙人側、という裏テーマとしてのアプローチも興味深く「おめえの苦労したい気持ちはフロンティアで活かせや」という残酷さよ…
未知のものに対する恐怖心はいつの時代も変わらないし、特に自分の存在、アイデンティティを侵犯してくるロボット(今の時代だとAIか)は人間と同じ形だと余計に危機感を煽られるのがよくわかる描写が多い。またアシモフの作品から生まれたロボット三原則を使ったロボットと人間の境目に関する議論がふんだんに用意されており話題のシンギュラリティと重複する部分がかなりある。だから今読んでも十分通用する話ばかりで興味深かった。訴えかけるような切実さを感じる以下のラインにグッとくる。
美とは、芸術とは、愛とは、神とは?われわれは永遠に、未知なるもののふちで足踏みしながら、理解できないものを理解しようとしているのだ。そこがわれわれの人間たる所以なのだ。
効率を最大限重視した功利主義、そして資源が相当限界を迎えているという設定も予言的に映る。最適化の結果、個人で持てるものがどんどん減らされて食堂や共同浴場が導入された世界はまるで刑務所だ。合理的であることが一番正しい、確かにそれは世の真理ではあるが、それは絶対的な正しさではない。以下のラインはひろゆきとか言いそう。
あなたが好奇心という用語でほんとうにいっている知識の無目的な拡大は非能率にすぎません。私は非能率を避けるように設計されているのです。
こういった古典のSFは読むの時間がかかるけれど読み終えたあとの達成感、満足感は大きい。しかも、前述のとおりこちらのイメージを裏切ってくることも多いので時間を見つけて積極的に読みたい。
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