2023年12月31日日曜日

人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本

人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本/稲田俊輔

 著者のおいしいものでできているを読みオモシロかったので新書である本著をサクッと読んだ。画一化の象徴であるチェーン店について深掘りしていてとても興味深かった。どこの県の国道沿いにも同じようなレストランやファーストフードチェーンしかないことを憂いてはや数十年。その画一化の中での進化を見過ごすのは本当にもったいないと思えた。当然個人経営のお店を真っ先に応援したい気持ちはありつつ著者のようにチェーンの良さを最大限まで堪能したいなと感じた。

 チェーン店を安かろう悪かろうで下に見る風潮の中で著者が目をつけたのはサイゼリヤだった。2023年現在、サイゼリヤをメタ的に本格イタリアンだと考えてベタ褒めするのは当たり前になっているが著者が火付け役のよう。提供されるメニューの美味しさに加えて顧客側のカスタム要素を根掘り葉掘り教えてくれていた。特に無償提供されている調味料を最大限に活用するテクニックの数々は今すぐ真似したくなるやつだった。ただ読了後に食べに行ったものの本著が書かれたときと状況が異なっており調味料はかなり縮小されており残念…とはいえ本著を読むことでサイゼリヤだからこそ楽しめるメニューを知れるので有用なのは間違いない。

 冒頭かなりのボリュームで説明されるサイゼリヤと同じように、さまざまなファストフード、ファミレスについて延々と書かれていて、いずれの論考も興味深かった。行ったことない店はほとんどなく身近なメニューに関する新たな価値観の提示があるので、食べたことあるものだとしても改めて食べたくなる。個人的には松屋のパンチの効いた味に関する歴史を紐解いた章が納得度が高かった。またチェーンではないものの、どの街にもある中華料理屋、インドカレー屋についても背景含めて細かく解説されていて勉強になった。「ベタ」はバカにされがちだけども、その先を見つめられるような著者のような視点は忘れずにいたい。

2023年12月30日土曜日

JUST PRISON NOW D.O 獄中記

JUST PRISON NOW ~D.O獄中記~/D.O

 ラッパーのD.O氏による獄中記。ラッパーの獄中記といえばB.I.G JOE氏の名著『監獄ラッパー』があるが、それと双璧をなす新たなクラシックが誕生したと思う。直近で日本の刑務所の改善に関する議論(根っからの悪人はいるのか)を読んでいたが、本著では日本の刑務所の現状を痛いほど知ることができて勉強になった。

 「日本の刑務所で刑を務める」この言葉の意味について、ドキュメンタリーや経験者のインタビューを見聞きして分かった気でいたけど、全く何も分かっていなかった。当然罪をおかした人間の更生を目的にしているから優しいわけはない。とはいえ21世紀とは思えないほどハードで理不尽な生活環境がヒシヒシと伝わってきた。(今の時代に冷暖房が皆無というのは信じられなかった。)著者はラッパーの中でもハードコアの部類に属するが、キャラクターとしてはバラエティで大ハネするくらいにキュート。ムショの中でもコメディリリーフとして立ち回っているんだろうなと想像できた。また日記の文体も読み手がいることを前提としたサービス精神旺盛な点が特徴的だった。(特に(汗)とか(怒)、顔文字の「^ ^」などがここまで大量に入った文章を読むのは久しぶりで新鮮。)本著はお務め中にブログとして公開されていたので、刑務所側のチェックも入っており下手なことは書けない中、日々の出来事を面白おかしく、ときにシリアスに書いている。またコロナ禍ど真ん中の話なのだが、もともと隔離されている場所だからか、外の世界ほどのドラスティックな変化がなかった点は記録として重要な資料にもなっている。(ただタオル地のマスクは本当に辛そうだった)

 家族や仲間の献身的なサポートが印象的で本当に愛されているのだなと思うし、逆にこういうサポートがなく刑務所にいるのは相当過酷だと感じた。そのくらい意味不明な決まり事が多くて学校、軍隊に近いものを感じた。本著ではアイロニーを込めて紹介しているケースが多いものの腹の中ではブチ切れているはず。そこを抑えこみつつ辛いエピソードもシノギにしてしまうD.O氏の胆力と作家としての筆力に改めてリスペクト。最近は例のBEEFの影響で「ストリート」に関する話題がSNS等でよく上がっている。そんな中でD.O氏が出所してすぐに家族に会えなかったエピソードをあとがきで読み刑務所と同じくらい過酷な「ストリート」の現実の一端に触れて怖くなった。そんなことを象徴するラインを2つ引用して締めたい。NORIKIYO氏も元気に帰ってきて欲しいってハナシ。

決して我々が事件やトラブルを起こしているわけではなく。事件やトラブルの方から我々に忍び寄ってくるのだということを。

我々のようなラッパーはこのトラブルとどう向き合い、どう乗り越えるかということも含めて自身の HIPHOPなのだということを決して忘れてはいけないってハナシ。

2023年12月29日金曜日

根っからの悪人っているの?

根っからの悪人っているの?/坂上香

 創元社という出版社が最近リリースしている「あいだで考える」シリーズ。気になるタイトルの作品がとても多く本著もタイトルに惹かれて買った。オモシロ過ぎて1日で一気読み…自分の頭で何かを考えて言語化すること重要さを痛感した。

 著者は映画監督であり、島根の刑務所でのTC(回復共同体)という取り組みに関する映画『プリズン・サークル』を撮った方。最初はその映画に関する感想の語り合い、そして映画内で実際に登場した受刑者(つまり加害者)との対話、さらには西鉄バスジャックの被害者との対話という構成。特筆すべきはその対話会に参加しているのは中学生〜大学生までの若い人達という点。私たち大人は子どもを幼い存在だと甘く見ることも多いかもしれないが、彼らの芯を捉えまくった意見の数々に何度も「そうだよなぁ」と納得した。なかでも「まほ」という女の子の発言は借り物ではなく自身からうねり出てきているようなワードが多くラッパーか詩人になれるのでは?と思うレベルだった。一部引用。

誰かと話すっていうことは、自分を相手と同一化して、相手と同じようになろうとすることじゃなくて、私と相手のあいだに「3つめの空間」をつくるような感覚だと思ってて。そこにお互い招き合う。お互いを招き入れる。「理解」っていうことは必要だと思うけど、それは同一化とか同情じゃない。

優しい気持ちとか、正しい気持ちが育っていくことだけが大切なのではなく、攻撃的な気持ちとかも含めて、どれだけ心が揺れたかっていうのが、その人の、人生になっていくというか。 誰でも、ささいなことで感情が動いて、崩れ落ちてしまいそうになることってあるじゃないですか。その時、自分の中に、「柔らかいもの」がいかに存在しているかが大事だと思ってて。

 加害者が若い人達と対話しながら、加害と被害の関係について議論していく。しかも傷害致死、強盗致傷といった割と厳しい前科の話から自分の生い立ちまで詳らかにしながら。なかなか見聞きできない場面の連続で読む手が止まらなかった。印象的だったのは感情の筋肉ことエモーショナル・リテラシーの話。自分に起こった事象に対して、どういった感情を抱いたか言語化する訓練を行い他人に話せるようになることで暴力を防ぐ。感情の筋肉が家庭環境によって身につかないケースがあるからこそ加害と被害の輪廻が止まらない。ここにタイトルである「根っからの悪人はいるのか」という話が接続し読者は思考を促される。感情の筋肉をつけることで自身の感情をコントロールする、また自分を愛することができるようになって初めて他人の痛みに気付く。ひたすらに加害者を追い込んでいこうとする今の社会情勢とは真逆の議論がそこにはあった。こういう議論を若い時にやっているかどうかは後の人生に大きな影響あるだろうなと思えた。映画の『プリズン・サークル』は配信されていないようなので書籍版を読んでみようと思う。

2023年12月27日水曜日

2023年12月 第3週

 年末ということでリリースも収まりつつあるし、新譜チェックもそこまで進まず…今年のクリスマスはZION.T率いるSTANDARD FRIENDSのクリスマスプレイリストにお世話になった。かなりバランスの取れたプレイリストでジャズ、ヒップホップ、R&B、クラシックなど幅広いレンジのクリスマスソングを堪能できる。一番「彼ららしいな」と思ったのはDevin MorrisonとRemi Wolf。来年も多分聞くと思う。

appendix by GIRIBOY

 GIRIBOYがレーベル離脱にあたって最後にリリースしたEP。こないだ出たアルバムの当たり障りなかった内容はレーベルとの契約で必要に駆られて作ったものだと考えれば納得できる内容だった。で今作はそのAppendix、つまり付録扱いとなっている。とはいえ正直アルバムより好内容だった。4曲収録でいずれもバンドサウンドになっていて、3曲は既発曲のバンドアレンジ。新曲も含めてGIRIBOYのサウンドとバンドの相性の良さがこれでもかと発揮されていて、正直バンドカバーアルバムとしてフルサイズでやったほうがよくね?と思うくらい素晴らしかった。好きな曲は新曲の”tree”

RAYSONTAPE by ARCHYPE

 友人から教えてもらったアルバム。年末にこんなかっこいいアルバムがくるなんて。。。認知度とクオリティが比例していない系で、韓国ヒップホップの懐の深さに毎度驚かされる。Frank Ocean,Tyler the Creatorの系譜にあることは一聴して明らかなんだけど、要素を抽出してオリジナリティーの高い作品に落とし込む能力が段違い。誰々風と指摘するのは簡単だけど、実際にここまでのクオリティを叩き出せる人がどれだけいるか。ARCHYPEはコレクティブの呼称のようでいろんなラッパー、シンガーが参加していて各メンバーの動きを追っていきたいと思わされたし、それこそ近いうちにBalming Tigerのようにグローバルヒットしていくと思う。好きな曲は”DOMINO”

 あとペコ氏をゲストに迎えたポッドキャストを公開した。もう聞いた人しかこのブログ読んでいない気がするけど、まだ聞いていない人がいれば是非。2023年の締めにふさわしい音楽の話ができたと思う。

2023ベストは尊敬している後輩のアルバムを聞いてからゆっくり考えたい。Fisongかっけー!

2023年12月26日火曜日

ギケイキ3: 不滅の滅び

ギケイキ3: 不滅の滅び/町田康

 11月から読み始めて一気に3冊目まで突入ということでサクッと読了。歴史小説にここまでハマる自分がいるとは想像もつかなかったし、すっかりこの世界に夢中になった。個人的には割と原典至上主義なところがあるけれど、ここまでいくと二次創作に無限大の可能性しか感じない。当然、原典の魅力もあることは理解した上で、他人の解釈も楽しければそれでいいじゃない、と本著のおかげで寛大になれた気がする。

 完全に撤退モードに突入した義経サイドの苦しい戦いについて綴られている第三巻。雪の中を必死のパッチで逃げ続ける過程はこれまでに比べるとシビアなシーンが多い。しかし持ち味である関西弁による脱力したゆるーい会話で楽しく読めるようになっている。また義経のあと語り形式によるメタ化は読めば読むほど癖になってきた。特に今回は当時の鎧、兜などの服装を現代のファッション雑誌での紹介のように描写しているシーンがお気に入り。落伍者として貧乏くさい格好になってしまう展開もあるので余計に美しいお召し物シーンが際立っているように感じた。またこのメタ構造があることで著者の考えを逆説的に浮かび上がらせていく手法が見事だと思う。例えばこんな風。

持続可能性のある社会を目指せ、などと言う人は、現状、いい目をみていて、それを維持したい人で、現状、食うや食わずの悲惨な目に遭っている人は、「もうなんでもいいから、現状を変えてくれ。いくらなんでもいまよりはマシなはずだ」

美しく歌ったところで、根底にあるものは同じ。私は美しい言葉を弄ぶ奴の心の奥底で常に銭と欺瞞のフェスティバルが開催されていることを知っている。

 後半は彼自身のエピソードではなく家来や周りの人たちの話で構成されているのが興味深かった。語り手としての義経はいる一方で、不在の彼がどういう存在なのか、周囲の言動で浮かび上がらせていく。そういった観点で本著のハイライトはエンディングを飾る静による頼朝御前でのギグであろう。音楽が当時の人にとっても、いかに心の安寧をもたらすものであったか。それを現代バンド風アレンジで大胆に描いている。この得体の知れない多幸感は著者自身がバンドの経験があるからこそ書ける音楽の醍醐味だと思う。次の第4巻で完結するらしいので楽しみ。というか古事記も同じ手法で書かれているそうなので、そっちを先に読む。

2023年12月22日金曜日

一私小説書きの日乗 憤怒の章

一私小説書きの日乗 憤怒の章/西村賢太

 一作目でハマったので二作目もサクッと読了。人の日記が好きで結構読んでいる方だけど、淡々と同じフォーマットで綴られる日常はまるでダンスミュージックのようなグルーヴがあり完全に虜になった。あと三作も楽しんで読みたい。

 タイトルに”憤怒”と記載されているとおり確かに怒っている場面が多かったといえばそうかもしれないが、著者にとっては通常運転なのかなと思う。自分の道理に合わない行為について厳しい姿勢を示し、ときに激怒する、そのことを虚心坦懐に書いている点がかっこいい。自分がどう見えるか、他者の評価を気にせず自分がどう思っているかを主張し続けているから。セルフィッシュに映ることも多いが、尊敬する人物に対する敬意の払い方は徹底している。当時はメディアにたくさん出る機会も多い中で彼とビートたけしとの邂逅が描かれていた。その場面がハイライトだと思う。丁寧な場面描写と共に著者がいかに感動したか伝わってきた。亡くなった後に文庫されており、玉袋筋太郎氏の解説もありその内容もまたグッときた。

 一巻から引き続き食事、飲酒の記録が生々しい。たくさん食べて飲んでいる。淡々とした生活の中で著者がいかに食事、飲酒を大切にしているか伝わってきた。それに影響されて自分の暴飲暴食っぷりも加速されるのでハマりすぎには要注意(西村賢太が朝方にこんくらい食べて飲んでるんだから大丈夫っしょ、という具合)個人的に面白かったのは痛風の影響で一杯目がビールからカルピスサワーになったこと。それだけなら何てことないのだけど、500mlのカルピスを別で毎日飲んでいることが後半でカミングアウトされて笑うしかなかった。

2023年12月20日水曜日

2023年12月 第2週

Street Knowledge by lobonabeat!, BILL STAX & oygli

 SKRRGANGというレーベルのlobondabeat!, BILL STAXの両名に加えて飛ぶ鳥を落とす勢いのoygliが参加した3名によるアルバムがリリース。今どき珍しいどストレートなトラップビートに対して三者三様のアプローチがかっこいい曲ばかりだった。友人から言われて気付かされたのは、この手のトラップでUS、UKのゴリゴリのやつは1回聞くと疲弊して2周目するケースはほとんどないけど、このアルバムはいい感じで力が抜けていて何回も聞いてしまう中毒性があるということ。大ベテランのBILL STAXが若手2人に挟まれても遜色なくやっていることに感動するし、やっぱ今年はoygliの年だったな〜と思わされる彼の仕上がり具合も最高。好きな曲は相撲の押し出しをワードプレイした”Sumo” 力士=相撲になっているけどオモシロいので良し。

podo by Jambino

 SMTM11で活躍したJambinoが1stアルバムをリリース。素晴らしいポップス的な感性をラップに落とし込んでいくスキルが存分に発揮された、彼らしさを存分に楽しめる作品だった。韓国ヒップホップのキャッチーな部分を最も体現しているといったも過言ではないくらい。feat陣はSMTMでのコネクションをフルに活用してLEE YOUNG JI, JAY PARK, Loco, toigoといった豪華メンツになっている。なかでもLocoとの曲はビートがGRAY。しかもモロにファレル節炸裂しまくりで最近の彼のビートの中でもかなり好き。その上を軽やかに踊るようにラップする2人がめちゃくちゃかっこいい。LocoのアルバムでもJambinoはComposerとして数曲に参加しているし、SMTMでの”Water”で相性の良さを両名とも感じたのだろう。2人でEPとか作って欲しい。好きな曲は”ping” 彼はラップ自体がポップネスに溢れているのでビートはちょっとドープくらいの方が相性がいいと思っている。

Blood & Bones(BLOOD) by Jin Dogg

J in Doggのアルバムが急にリリース。前作同様、二部構成となっているらしくBLOODサイドが先に聞けるようになった。1曲目からゴジラサンプリングの超バイオレントなドリルが炸裂しており、そのトーンでアルバムを走り切るというハイカロリーアルバムとなっている。こういうアルバムを聞くのはシチュエーションが限られるけど、仕事で腹立つヤツにメールするときにとても有用(当社比)。Jin Doggのラップは人を鼓舞するエナジーが本当にハンパなくて聞いているだけで自分が強くなった気分になれる。ヒップホップという音楽がもたらす福音の一つを最大限に体現してるラッパーだと思う。あとはガヤが日本のヒップホップの中でも最強クラス。Dipset以来Migos以降、ガヤはヒップホップの特に重要なファクターになっているが、ガヤのエナジーもエグいんすよねぇ…自分が若かったらライブ見に行ってはしゃいでたと思うし、先日のポッドキャストで話した日本のアンダーグラウンドで沸騰する詰め込むタイプのドリルに影響を与えている1人だろうなと思う。好きな曲は”OMG”

Wisteria by CreativeDrugStore

 CreativeDrugStoreの1stアルバムがリリース。緩やかなコレクティブだった彼らが、各人の活躍を踏まえてどんなアルバムを作るのか楽しみだったが、思ったよりどストレートなヒップホップアルバム。いい意味で予想を裏切る好内容だった。というのもBIMやVavaのポップスフィールドに配慮したかのようなメロディ、コード感に辟易していたから。若者たちはそれを入口にヒップホップが好きになっているのだろうから裾野を広げる活動としては大きな意味があると思う。ただ2人のラップが好きなおじさんにとっては物足りなかったこの数年。そのフラストレーションがすべて解消されるような内容だった。特にVavaがオートチューンを使わずストレートにラップをかましているところにかなりグッときた。
 各人の強みをグループにフィードバックするというよりもグループとして新たにサウンド像を作り上げていく姿勢がかっこいいなと思う。ビートはRascal、Vavaがメインを担い、doooo、DJ MAYAKUが味変として機能。全ビートのクオリティが高い上に幅広いスタイルを抑えている。ここ20年くらいのビートのトレンドをさらっていくかのような感じなので、ずっと流していても楽しめた。個人的には”Menthol”のビギーの”Juicy”オマージュなドラム使いや”Retire”のダブステップにブチ上がり。好きな曲は”180”

LOYALTY by LUNV ROYAL
JETLIFE by JETG

 LUNV LOYALの新しいアルバムがリリース。ドリルを積極的に取り入れた内容でめちゃくちゃかっこよかった。Watsonとも呼応するワードプレイの数々、デリバリーの豊かさ、声質の気持ちよさ。ラップのレーダーチャートにおいてキレイな五角形を描く全方位的なかっこよさがあり聞いていて気持ち良いし全く飽きない。  秋田出身でフッドをレペゼンするリリックがたくさんあるのが興味深い。最も顕著なのは”Shibuki Boy” 上ネタの笛の音色が本当にかっこよくて、下手うつとめっちゃダサい「和風」ビートになるところを絶妙なバランスで「和」を体現していると思う。これは日本人にしか作れないかも。あと”高所恐怖症”で自殺率が高い負の側面を曲に落とし込んでいる点もかっこいい。そして今作で一番フィーチャーされている、いぶりがっこ!語感がオモシロいし隠語としての使い方が最高だった。なので、好きな曲は”Iburi Gacko Flow Pt.2” これで「JETGかっけー!」となって友人からそのアルバムを教えてもらってヤンガンのドリルを色々ディグった今週でした。

Hood Boy Story by YELLASOMA

 前にPanDeMicsを後輩から教えてもらって知ったYELLASOMAのソロ作品。リリックを引用しているくらいにかなりT-Pabrow節が強い。このスタイルだとフレックス系多いけど、彼は等身大のリリックでラップしていてギャップがオモシロかった。最近は本当に背伸びするリリックがなくなっている傾向にあり、自分の身の回りの話をいかにラップでかっこよく語るかレースになっていること再認識した。それは雰囲気よりも中身が大事ということであり音楽に対しても「リアル」を希求する時代なんだなーという隔世の感。そうなってくるとヒップホップは最強の音楽であり今若者に人気があるのはこういう点なんだろうなと思う。この観点で見ると彼のラップはとてもかっこいい!好きな曲は若者の考えが肌感で伝わってくる憂いを帯びた応援ソング”がんばっぺ”

TORiO by Only U, Tim Pepperoni & Puckafall

 ラッパーのOnly U, Tim PepperoniとビートメイカーのPuckafallによるEP。オートチューンバキバキのSinging Styleで今っぽさ満点でかっこよかった。完全にユース向けの音楽だと思っていて、その中でリリックが興味深い。ADHDに対する価値観を反転させようと試みる”ADHD RiCHHH”とか、”±”で訴えるセルフケアの大切さ、自分達の色を”MULTiCOLOR”と呼び多様性を主張したり。自分が若かったら刺さっているだろうな〜というリリックが多く青春を感じる。(遠い目)こういうのを説教くさくなく、かつ絵空事でもないように聞かせる2人の自由なラップとPuckafallのキャッチーなビートが癖になった。好きな曲は”ADHD RiCHHH”

Ornamental by TERRACE MARTIN

 2023年のTerrace Martinは本当に精力的で今回はクリスマスアルバムをリリース。オーナメントにあるのはMPC3000とシンセサイザーで今回のアルバムは生演奏というより打ち込みメインとなっている。(シンセは弾いているだろうけど)こういういい感じのインストは色んな場面で重宝するので家で結構聞いていた。いわゆるLAノリであるレイドバックしていてメロウなシンセサイザーな音色はいつまでも聞いていられる。ただクリスマス要素があるかといえば、それはパッケージング側の都合であり季節問わず聞ける内容になっていると思う。好きな曲は唯一のfeat曲である”Angle View” DJ Battlecat のトークボックスと Terrace Martinのボーコーダー&サックス、Courtyanaのボーカルのコンビネーションで荘厳な気持ちになった。

Sail the Seven Seas by Park Hye Jin

 Park Hye Jinが2ndアルバムをリリース。Peggy Gou,Yaejiといった一連の韓国の女性プロデューサーの系譜にあるアーティスト。前作はNinja Tunesからのリリースだったが今回はセルフレーベルからのリリース。前作はそれまで彼女がEPで紡いできた四つ打ちに加えてトラップなどBPMの遅い曲を含めて世界観が出来上がっていたと思う。今回はこの何とも言えないインスタントなジャケのように作った曲を単純にパックしたようなミクステのような印象だった。個人的にはこう言うラフな感じでアーティストが表現したいものがダイレクトに伝わってくる作品は好きなので前作よりも愛聴している。なかでも終盤の”California”は日本受けするような泣きのシンセ(tofubeats”水星”とか)がたまらない。ただ好きな曲は彼女の本領が発揮される四つ打ち曲”Keep Going”