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KISSA by KISSA/クレイグ・モド |
いつも聞いているRebuildにゲスト出演された回がオモシロくて読んだ。ポッドキャストを聞いている際にも感じた視点のユニークさが、本著ではさらに際立っていて、日本生まれ・日本育ちではなかなか気づけない「日本の奥深さ」に触れることができた。
著者は、旧中山道(東京〜京都)を、交通機関や自転車を一切使わず、徒歩のみで踏破していく。その道中で出会った喫茶店と、そこにいた人々とのやりとりが、エッセイとして綴られている。日本の片田舎にある純喫茶に、突然「東京から徒歩で来た」という日本語の話せる白人男性が現れ、自分たちの話を熱心に聞いてくれたら話も弾むだろう。その結果として集まったエピソードの数々は、どれもとても貴重なものだ。
ブルーボトルコーヒーが、日本の純喫茶インスパイアであることは周知の事実だが、著者が掘り下げているのはコーヒーカルチャーだけではない。ブルーボトルがすくいあげなかった、コーヒー以外の純喫茶の「周辺」に存在するカルチャーと人である。独特の内装、モーニングという制度、店主や常連のお客さんたち。その姿は街をフィールドにした社会学者のようでもあり、翻訳ゆえの大仰な語り口とあいまって、どこか歴史家のような風格さえ感じさせる。
読み始める前は「旧中山道といっても、今では国道沿いにチェーン店が並ぶだけでは?」と思っていた。しかし、著者は「喫茶店のピザトースト」を足がかりに、個人経営の純喫茶を巡礼のように訪ね、発見していく。「金太郎飴」だと思っていた街の中を、まるで桃源郷のような純喫茶を独自の審美眼で見つけては、お店の人、お客さんと会話することで土地の理解を深めていく様が興味深かった。価値のないと思われているところに新たなレイヤーを見出していく態度はヒップホップ的ともいえる。
シャッター商店街や地方の過疎化については、すでに多くの切り口で語られてきたが、そこに日本国外の視点が加わることで、改めて気づかされることが多かった。たとえば、他国であれば、人がいなくなった場所は荒廃してしまい、うかつに近づけなくなるが、日本ではそのまま静かに残っていて、つぶさに観察できる。これが日本の独自だという視点は日本人には浮かばないだろう。
若者の人口減少とグローバリゼーションの加速度的進行が、シャッター商店街、田舎に顕著に表れていると指摘されているが、2025年現在、それはさらに加速を進め、都市部の個人店もどんどん駆逐されていき、どの街も「金太郎飴」的な均質な風景へと変わりつつある。(渋谷とか)だからこそ、著者のように、自らの足で歩き、自分の目で見て、耳で聞くという行為は、ますます重要になっていくだろう。AI全盛の時代において、それはまさに「人間にしかできない営み」だ。
この版元であるBOOKNERDにて拙著『日本語ラップ長電話』をお取り扱いいただいております。ぜひKISSA by KISSAと合わせて、ご購入くださいませ。
「結局、宣伝かい!」と思われるかもしれませんが、たまたま読んだタイミングだったのです…!奇跡!
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日本語ラップ長電話 on BOOKNERD |