ISSUGIの新しいアルバム『Day’N’Nite
2』のリリースライブへ行ってきた。2016年以来、二度目のGRADIS
NICEとのタッグアルバムだ。GRADIS
NICEはさまざまなラッパーにビートを提供しているが、やはりISSUGIとのあいだには特別なケミストリーがあり、今回のアルバムの素晴らしい曲の数々をライブで聞けることを楽しみにしていた。
基本的にアルバムの流れで順番にパフォーマンスを披露していくスタイル。GRADIS
NICEがバックDJを務め、アルバム冒頭を飾る「BK
Suede」を流したところでISSUGIが登場。Navy NubackからBlack suede
という変化と、下げたジーンズという変わらないスタイルの対比から放たれる”東京のアクセント”は誰もが簡単に真似できない彼のB-BOYスタンスだ。
矢継ぎ早にfeatを呼んだ2曲へ流れ込む。「YingYang」「Step into the
game」のいずれもEpic, Eujun, Sadajyo
といったフロー巧者を召喚した曲だが、これらの曲におけるISSUGIのリリックに注目したい。”貧しさから握ったマイクじゃない”、”Japanese
rap
悲劇の悪趣味をオレが喜劇でOver”というラインは明らかにRAPSTAR誕生以降を踏まえているように映る。それはSadajyoをフックアップしていることからも明確で、Sadajyoにはリアリティショーとして分かりやすい一種の「不幸自慢」がなかった。それだけが彼が敗退した理由ではないとはいえ、スキル、アティチュード至上主義のISSUGIが彼を大きくフックアップすることにシーンに対する一種の宣言が透けて見える。MONJU以外でSadajyo、JJJだけが2曲客演したこと、この日のセットリストにもあった「Lyrics,
Gemz, Peeps & Treez」のリリックからも明らかだろう。
GRADIS NICEとの1作目である『DAY AND
NITE』からどの曲が披露されるのか楽しみにしていたが、仙人掌、Mr.PugというMONJUの盟友二人がそれぞれFeatで参加した曲だった。一作目は本当によく聞いたので、久しぶりにライブで聞くことができて嬉しかった。当時のリリパは代官山の「晴れたら空に豆まいて」だったことも踏まえると、この日の観衆の多さは隔世の感があった。
上述したメンバー以外の客演はJJJ、BESといった安定感抜群な馴染みのメンツ。前回のライブでもバイブス番長としてのBESは際立っていたが、今回もそれは健在だった。アルバムの中では隙間の多いビートだが、ラップ魔神二人にかかれば極上の仕上がりになる。ここ5〜6年でBESのライブパフォーマンスを何度も見てきているが、確実に息を吹き返しており「あの頃のBESが!」という気持ちで本当に嬉しかった。JJJは言わずもがなの仕上がりであった。
惜しむらくは今回のライブで5lackがいなかったことだろう。というのもアルバムにおける5lackの役割はアルバム全体のクオリティを支える大きな屋台骨だからだ。「Janomichi」で素晴らしいメロディでフックを歌ったかと思えば、「Wizards」で放たれるラップは独特の間の使い方で完全にネクストレベル。そんな彼の不在は痛手だったものの、そこは見せ方を工夫していた。特に「Wizards」では、5lackのバースをアカペラで聞かせてから、GRADIS
NICEのエグいビートがドーン!と鳴ってぶち上げるという百戦錬磨のラッパーゆえの魅せ方が素晴らしかった。
この日のハイライトはなんと言っても「XL」である。ヒップホップに対するアティチュードの表明は前作から特に顕著になっているが、今回のアルバムでは「XL」がそれを担っている。今のISSUGIのライブへ来ている観衆の多くは礼拝するかのように、そのアティチュード、つまり「俺たちの好きなヒップホップとは何なのか?」を確認しに来ているはずだ。だからこそ盛り上がりは他の曲と段違いだった。そして、この曲から「One
on One」
へ流れていくことで「XL」の意味がより輝く。彼の数あるパンチラインの一つ、”XLのシャツに意味なんて求めるな”をリリースから11年も経った曲で回収していくのは本当にかっこよかった。本人も「一番ライブでやりたかった」と言っていたので、「366247」のような新たな定番になるかもしれない。
また、ISSUGIのDJに対する独特の熱い想いも光った。スクラッチ要員としてDJ
SHOEを呼びこんだり、一通り今回のアルバムの曲をやり終えると、バックDJとしてわざわざScratch
Niceを呼び込んでいた。ヒップホップのライブでは、バックDJが単なるポン出しになることも多い中で、彼がDJに見出している意味がステージングから伝わってくる。ラップがうまいラッパーはいくらでもいるかもしれないが、こういう細かく、そしてかっこいいアティチュードの積み重ねが、ISSUGIというラッパーを形成していることが如実に現れた場面だった。
今やヒップホップは日本でもポップカルチャーの一部となりつつあるが、それに伴った歪みを感じる場面はリスナーレベルでもたくさん遭遇する。プレイヤーサイドはそれ以上にどういう表現をするのか、アティチュードが問われる場面が今後ますます増えていくだろう。そんなとき、ヒップホップを文字通り体現するようなラッパーたちが最後の砦となり、私たちが愛するカルチャーを死守してくれるはずだ。そんな最後の砦のラッパーの一人、ラストB-BOYは間違いなくISSUGIだという思いを新たにするライブだった。