いのちの車窓から/星野源 |
パートナーに誕生日プレゼントで『いのちの車窓から 2』をもらったのだが、一冊目を読んでいなかったので読んだ。音楽家としての星野源を一番聞いていた時期のエッセイなので楽しめた。
文章が書けないので、その練習として連載を始めたらしいのだが、信じられないくらい読みやすい。うどんをツルツルとすするように読めた。正直なところ、2024年時点の星野源については背負っているものが大きくなりすぎた結果、存在のパブリック性が必要以上に高まってしまっており、個人的にはそこまで興味を抱けていない。本著が書かれた2014〜2017年ごろは国民的スターとなる一歩手前のちょうどいい塩梅があり、人間味を感じるエピソードが多くオモシロかった。なかでも小学生の頃のエピソードで、嫌がらせしてきた相手に対して脳内報復する描写の唐突なバイオレンスはグッときた。
彼は役者、音楽、文筆とマルチな才能を発揮しているなかでも、音楽に関するエッセイがやはり一番惹かれた。どういう気持ちで音楽の制作に向き合っているか、どのように制作しているのか、また楽曲やアルバムの背景など、知らなかったことがたくさん書かれていて興味深かった。ブラックミュージックとJ-POPの今までにないバランスでの融合を模索している過程が特にオモシロく、「SUN」はリリース当時「あーそっちいくかー」と虚しく感じた記憶があるが、その意図を知って溜飲が下がった。また細野晴臣とのエピソードは、細野晴臣をレコメンドする文章として一級品で色々聞いてみたくなった。
2024年の今読むと伏線回収される話がいくつか収録されている点も趣深い。一つはパートナーである新垣結衣とのエピソード。てらいなく彼女を褒めており、芸能界ど真ん中の二人がパートナーになる前に、男性サイドがこんな形で思いを文章で残しているケースはないのではないか。そんな意味でも貴重なものと言える。
もう一つはライブでのノリ方について。今年出演したフェスで「みんなで手をあげるのをやめましょう」と観客を促したところ、ツイッターを中心に燃えていた。しかし、2016年時点で彼は同様の意見を本著で述べている。そもそも「自由に踊ってほしい」というメッセージなのだが、2024年の今ではこんなことでも燃えてしまう。自分に対するネガティブなムードを当時からすでに察知していたかのように、批判、批評に対して過度なアレルギー反応を示していたのも印象的だった。「常に前向きに、ポジティヴに」という生き方を否定したいわけではないが、「嫌いなものを口に留め」という彼のマインドセットは悪い意味でいえば、我慢や服従を促していないか?と感じてしまった。「人それぞれの生き方がある」とディスクレーマー入れていたものの、今や彼の言葉は多くの人の言動を左右する可能性があるからこそ、余計なお世話だとは重々承知の上で、自己主張をエンパワメントする存在になってほしいと勝手に期待してしまう。このあと、どのような心境の変化があるのか、ないのか、二作目を読むのが楽しみになった。
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