2021年12月6日月曜日

コンヴァージェンス・カルチャー: ファンとメディアがつくる参加型文化

コンヴァージェンス・カルチャー: ファンとメディアがつくる参加型文化/ヘンリー・ジェンキンズ 

 ポップカルチャーとファンダムの話を知りたいなと思ってググったときに出てきて読んでみた。2008年に出版された本なのでiPhone、TwitterやFacebookといったSNSが登場する前の話なんだけど、著者の先見の明が炸裂していて興味深かった。映画やリアリティショーなど今でも人気のコンテンツに対して消費者がどう接してカルチャーを構築していくのか示唆に富んだ話が多く今でも通じる話になっている。(以下長々と書いたのだけど500ページ超の専門書になると理解が追いついていない部分が大多い…)

 convergenceは日本語だと「収斂・収束」を意味する。なじみのない英単語だけど本著内では以下の定義となっていた。これだと分かりにくいけど、3のオーディエンスによる積極的コミットメントの話がメイン。

1. 多数のメディア・プラットフォームにわたってコンテンツが流通すること

2. 多数のメディア業界が協力すること

3. オーディエンスが自分の求めるエンタメ体験を求めてほとんどどこにでも渡り歩くこと

 1、2章はリアリティショーと視聴者の関係性について考察していて、ここが一番オモシロかった。具体的には「サバイバー」「アメリカンアイドル」なんだけど、これが今のリアリティショーの土台になっているのだなとよくわかった。リアリティショーはコンテンツそのものだけでは到底成立しなくて、視聴者による積極的参加が大事であり、そのためにはさまざまな仕掛けを用意して常に飽きさせることなく議論となる話題を提供し続けなければならない。ボケとツッコミの関係に似てるなと思うし、番組のファンになった場合、そのロイヤリティの高さは他の番組とは異なるのでプロダクトリプレイスメントが積極的に行われるという話はなるほどなーと勉強になった。(実際Show Me The Money内でスプライト何回も出てきて飲みたくなった自分がいた)

  3、4、5章はマトリックス、スターウォーズ、ハリーポッターというポップカルチャーとファンの関係について考察していて、これが一番読みたかった内容。マトリックス公開当時はまだまだ子どもでアクセスできていなかった事実の数々を知って、こんなに複雑な構造になっていたのかと驚いた。具体的には、映画だけではなくゲームやアニメなどで別の世界を用意して、それらと映画を連結させていく。映画だけだとわからない世界観を作り上げていくスタイルと、どうにでも取れる考察しがいのある要素を散りばめまくったことでカルト的人気を産んだことを細かく知ることができて勉強になった。今年はまさかの4作目の公開も控えているので見直したい。この章を踏まえるとDisneyがMCU、スターウォーズを傘下に収めて、自らのストリーミングサイトを運営し始めたのは著者の言うところのコンヴァージェンスそのものだと思えた。

 スターウォーズ、ハリーポッターでは二次創作の話がメイン。スターウォーズは比較的優しい方で、ある程度の範囲で二次創作を認めることでファンダム形成を促し権利を手放すことで得ることのできる利益を見通していた。その一方でハリーポッターは当初著作権の侵犯とみなして厳しい対応を取ってしまい、大きなハレーションを生んだという対比が興味深い。二次利用と著作権の関係はとても難しいなと感じる。(日本はコミケでの販売含めて相当ゆるい方なんだという気づきがあった)今の時代はさらに加速して企業側が二次利用を促し、それをSNSで拡散するスタイルだと思うので時代はここ10年で大きく変化したと思う。ハリーポッターの章でオモシロかったのは子どもたちがカルチャーに参加することで集合知的の学びを得ることができるという話。学校ではあくまで独学で学ぶことを教えることを中心としているけど、実際社会に出てから必要とされるのは協業して集合知を形成していく力なんだから大事や!とい論調が新鮮だった。

 そしてこういったカルチャーへの参加と政治への参加を結びつけていくのが終盤。選挙におけるインターネットの活用についてはトランプが当選した大統領選挙でかなりネガティブサイドへの注目が集まっていると思うけど、2000年代後半は権威主義ではなく市民の手に政治を取り戻す可能性がまだまだ残っていたのかもしれないと感じた。ただ著者はインターネットがもたらした自由、つまり多様性の尊重は無秩序を産むかもしれないと懸念もしているところが先見の明。そういった変化の狭間にいることに自覚的な状態でいろんな角度から論じている点を未来人観点で読めるのが楽しかった。同じテーマで今のテクノロジーについて書いている本があれば読みたい。

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