2021年3月17日水曜日

BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相

BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相/ジョン・キャリールー

 2018年、会社を退職する際の有給休暇消化として友人のいるサンフランシスコへ遊びに行った。そのとき友人とLAにも足を延ばして観光を中心に楽しんだ。ある夜、食事を終えてからバーに入ったところ隣にいた女性が1人で黙々と本を読んでいて、バーで本を読むなんて珍しいなと思ってタイトルをメモした。それがこの1冊。ついに翻訳されたとその友人から聞いて読んでみたら信じられないくらいオモシロかった。シリコンバレーでユニコーン企業として莫大な資金を調達したヘルス系のテクノロジーが実は全部嘘だったという衝撃の実話。それをまるで小説のようなタッチでスリリングに書いてくれているので単純な事実、ニュースよりも何倍もオモシロい。ウォール・ストリート・ジャーナルで勤務していた筆者の筆力が存分に発揮されている。また相当綿密な取材に基づいており、確認した重要な事実についてはほとんど脚注がついていて付け入る隙を与えない著者の気概を感じる。
 主人公はセラノスという血液検査のテック企業を立ち上げたエリザベスという女性。この会社の売りは血液検査を静脈注射ではなく指に針を指して極少量の血液で可能としたこと。これにより血液検査のハードルが下がりさまざまな疾病を早期発見できるようになったり身体への負担も減らすことができる。志や良しだし実現すれば素晴らしい世界になるのは間違いない。生化学の分野でこれだけの技術進歩を進めるのは並大抵のことではなく中々うまくいかない。しかし彼女は類稀なるカリスマ性と詭弁で群雄割拠のシリコンバレーをサバイブしてアメリカ有数の投資家/VCから資金調達を達成し続ける。この過程がスリリング!セラノスのテクノロジーの実情が明らかになり、すべてがご破産になるかもしれない瞬間が何度も訪れるものの、その度に情報開示を極端に制限することで、むしろ勢いが増していく過程は想像以上だった。シリコンバレーといえばテクノロジーのメッカであり厳格な査定のもとで投資しているのだろうと思っていったけど、投資家はなんとなくのムードで投資していることが衝撃。さらにリテイル系の会社は競合に出し抜かれないために盲目的に進めていたことにも驚いた。
 初めは詭弁でギリギリ嘘じゃないラインを守りながら会社の価値を高めていったものの、限界を迎えてある臨界点を超えた瞬間に躊躇なく嘘をつき始める。そこからは何でもありになった結果、さらに勢いが高まり共和党、民主党問わず政治家や軍人まで巻きこみ、さらにその様子を見て「大丈夫だ」と安心して皆がわんさか投資する。これだけ膨れ上がった企業を相手に1人のジャーナリストが戦う。この様子を描いた後半が本作の最大の読みどころ。前半は三人称視点で話が進むのだけど、著者が問題に関わり始めたところから一人称になって事態が一気に加速する。ここを読んでいるあいだはアドレナリンが出まくってページをめくる手が止まらなかった。法律規制と企業のあり方という話は今の自分の仕事に直結していて、コンプライアンスと企業利益のバランスを考えるのは難しいなと感じた。ジャケットがとても残念だけど、ヒリヒリする系のノンフィクション好きの人にはおすすめ。 

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