2023年8月31日木曜日

2023年8月 第4週

Dry Season by D.O & Deepflow

 VMC解散後、Deepflowのまとまった作品が初めてリリース。30への加入の衝撃があったが、本作でもオーセンティックなスタイルは健在。30がらみのDSEL, Son Simba, Khundi Pandanのfeatもあって隙がない。本作はD.Oというビートメイカーとの共作になっていて、24分の小ぶりな作品ながらイントロ、アウトロを律儀に用意しているあたりに彼のヒップホップマインドを垣間見た。好きな作品は泣きのトランペットが印象的な”Fizz”

GRATEFUL by NSW yoon

 SMTM11で最も跳ねた新人NSW yoonが1stアルバムをリリース。どこかのレーベルに所属するかと思いきやインデペンデントでのリリース。とはいえAmbiton, Daytona周りのfeatが多く、The Quiettがメンター的にいるのかも?と思うし、アルバムとしての完成度がめっちゃ高いので関与している気がする。。。ドリルで名を馳せた彼だが今回はその伝家の宝刀を封印してトラップかつメロディアスなビートの曲が多くて意外だった。この辺りが並の新人ではなくて将来のビジョンがあるのだろうなと思う。彼のキャッチフレーズ?として”Ok, let’s go”があるのだけど、こんな簡単なラインをかっこよく聞かせられるだけでラッパーとしての才覚を毎度感じる。好きな曲は”Blessin”

Back on the Street by LLOW & Lui Hua

 LLYOWがJinmenusagiをfeatに迎えた”Sunagawa”がYoutubeのレコメンドで出てきて良かったから、軽くディグるとLui Huaとアルバムが出てた。このアルバムがめちゃくちゃいい…個人的にはAOTY!2010年代的なバイブス(SCARS周辺とかCCG的な)がめちゃくちゃあって、日本語の歌詞にこだわっているのもビシバシ感じる。30〜40代のヘッズにはおすすめ。LLYOWがオーソドックスなスタイルでLui Huaがメロディ含めてフリーキーなスタイル。2人のバランスが絶妙で何回も聞ける。トピックは紋切型と言われれば確かにそうなんだけど、この手のど真ん中ヒップホップが最近ないので逆に新鮮だったし、リリックのオモシロさでいえば”はじめの一本”という曲でWeedを吸わない側の視点でラップしているのがめちゃくちゃ最高。好きな曲は中でも青春を感じさせる”Real Life”

Stay Alive by P¥TA

 LeMuのメンバーP¥TAによるソロEP。LeMuはもう絶対売れると思うので、そっちは聞いてほしいのだが、ソロ作品になるとケミストリーがないので若干物足りなさを感じた…実質LeMuな”Munch”はとても良かったのでLeMu名義のアルバムを期待。次はWillのソロ作品が出るみたいだけど。

No Limit by KOWICHI

 SELF MADEを立ち上げて若手の育成に励む中で自身の作品をリリース。KOWICHIがここまで日本のヒップホップシーンの中で大きい存在になるとは隔世の感がある。今回のアルバムもお抱えプロデューサーのZOT ON THE WAVE, dubby bunnyの両巨頭に加えてHomunculu$まで加わってサウンドは超一級品。現行USと遜色ないビートの上でフレックスなリリックというストレートなヒップホップがかっこいい。彼がここまでの存在になったのはリリックの分かりやすいオモシロさにあると思う。ダブルミーニングとかクスッとさせるラインがどの曲にもあるし”Toraichi”とかトピック立てのユニークさも特徴的。日本におけるヒップホップの一つの完成形だと個人的には思う。

Soulection White Label 025: Mad Keys - EP by Mad Keys

SoulectionのWhite Labelシリーズ第25弾。このシリーズはいつも最高だけど今回ももちろん良き。Mad Keysというキーボーディスト兼プロデューサーがフィーチャーされていて浮遊感のあるビートがかっこいい。やはりキーボードという、ピアノの音がメインにあって、そこからビルドアップされているのだろうなという印象。幼い頃にバイオリンをやっていたらしく、それもあって最後の曲”Because of U”の優艶さはかなりグッときた。久石譲バイブス。

The Patience by Mick Jenkins
Hotel 1105 by D2x
I Now Know. by Ausar

 シカゴのヒップホップがアツい!とSNSで紹介されていた3枚。Mick Jenkinsは過去作も好きでfavoriteなラッパーの1人で今作もかっこよかった。FeatがFreddie Gibbs,Benny the Buthcher,JIDという人選からしてラップ愛がビシバシ伝わってくる。この人はリリカル系なのでリリックを丁寧に追って聞きたい。。。  D2xはJay-Zを彷彿とさせるスピット系ラッパー。”Faith”という曲では”Song cry”から引用しているので本人も意識しているはず。ビートもサンプリングベースでソウルフルなものが多くて確かに往年のシカゴバイブスがあった。KanyeがSlum Villageに”Selfish”で提供したビートと同じサンプル使いもあり、その曲が大好きなのでブチ上がった。こういうラッパーはメインストリームでなかなか見なくなっているけどUSでは脈々と歴史が紡がれているのだなという気づきもあった。  Ausarはメロウなスタイルが印象的で最近のトレンドをふまえた感じ。スタイルが完成していてかっこいいのだけど、このレベルでもUSの中ではそこまで知られてないというのは恐ろしいことよ。

Nova by Terrace Martin & James Fauntleroy

 Terrace Martinが精力的にリリースを続けており、今回はシンガーのJames FauntleroyとのEP。直近のジャズ回帰というよりもボサノヴァ、ソウル、ファンクといったテイストでめちゃくちゃ好きだった。どんなシーンでも聞けるので隙あらば聞いていた。好きな曲はBボーイ的にどうしても反応してしまうベースラインやドラムブレイクがアツい”Like It Like That”

2023年8月29日火曜日

闇の中の男

闇の中の男/ポール・オースター

  ベタな作家の本を読めてないことはたくさんあり、そういうのをたまに読みたくなる。装丁が渋くて読んでみたら、やはりポール・オースターなのでしっかりオモシロかった。

 元物書きの老人が夜眠ることができない中、思い出したくない過去や考えたくないことを振り切るために物語を創作するという設定からしてオモシロい。寝る前に限らず嫌な過去などが唐突に頭に去来して何とも言えない気持ちになることは往々にしてあると思う。それを乗り越える行動が物語の創作なんだ!という驚きがあった。

 老人の創作した物語と老人、娘、孫娘の現実の話がクロスオーバーしつつ描かれていく。前者については一種のエンタメ小説になっていた。アメリカ国内で内戦が起こるパラレルワールドへ飛ばされた男の話でSF的な展開が好きだったし、メタ構造で創作している著者をブッ飛ばさないといけないアイロニーもいい。以下引用。

私自身を物語に入れることで、物語は現実になる。さもなければ私も現実ではなくなる。私の想像力のもうひとつの産物にすぎなくなる。

 ただ個人的に好きだったのは後者の現実パート。三世代で娘、孫娘ともにパートナーが不在で3人暮らしという設定がとても新鮮で、彼らのコミュニケーションの様を読んでいるだけで癒された。ハイライトは老人と孫娘の会話だろう。前半の映画にまつわる議論、特に『東京物語』から見る近代化と親子関係という話はとても興味深かった。また後半、老人が亡き妻との関係を孫娘からの質問に回答していくシーンは結婚生活の酸いも甘いも含まれており思わず”That’s life.”とでも言いたくなるような内容だった。これとかグッときた。

歳をとるにつれて、問題も減じていくように思えたんだ。でも三十五、三十八、四十、あのころはなんだか、自分の人生が本当に自分のものじゃない気がしていたんだ。自分が真に自分の中で生きてこなかったような、自分が一度も現実だったことがないような。現実ではないがゆえに、自分が他人に影響を及ぼす影響もわかっていなかった。自分が引き起こしうる傷も、私を愛してくれる人たちに自分が与えうる痛みもわからなかった。

 創作された物語だけでなく戦争が大きなテーマの作品になっている。孫娘のパートナーがイラク戦争に志願し悲惨な結末を迎えるところの描写は辛かった…その姿をしっかりと眼に焼き付けて闇の中に置き去りにしないという考え方にシビれた。あとがきを翻訳を務めた柴田元幸が書いており、そこでアメリカにおける911と^物語をめぐる話がありそちらも興味深かった。他の代表的な作品を全然読んでないことに気づいたのでグイグイ読んでいきたい。

2023年8月27日日曜日

丸の内魔法少女ミラクリーナ

丸の内魔法少女ミラクリーナ/村田沙耶香

 以前からタイトルが気になっていて、ついに読んだ。そしていつも通り村田節がこれでもかも炸裂しているとても好きな作品だった。毎回どの作品も質、密度ともに圧倒的すぎる。

 タイトル作を含めて中編四つで構成されている。どれもオモシロかったが、やはりタイトル作が好きだった。36歳の女性が子どもの頃のアニメにまだ執着していて、心の中で魔法少女に変身して日々辛いことがあっても乗り切っている。これはギリ可愛らしさがあるものの、この設定から物語がビジランテものへと派生していくのが興味深かった。なぜならSNSなどで散見されるジャスティス・ウォリアーのメタファーだから。仕事終わりに駅をパトロールして困っている人を助ける、と言えば聞こえはいいが、徐々にお節介と言えるレベルまで到達。最初はパトロールがおかしく見えるものの途中で既視感を覚え、それがSNSだと気づく。SNSの場合、たくさんの人がエゴサ含め毎日のようにパトロールしているが現実社会に置き換えるとかなり奇妙だと気付かされる構成が見事。これとかマジ痛烈…いやめっちゃいる!なんならそのYoutuberもいる!

私は男の人が魔法少女になっても全然いいと思うけど、誰かを守るためでもなく、パトロールする快楽自体が目的のパトロールを毎日する大人は、あんまりいないよ。

日常に潜む欺瞞や矛盾を持ってきて、心眼を開くように物語を紡ぐのが毎度のことながら天才的としか言いようがない。

 「変容」という話も好きで若者、変化していく社会に順応できるか、そもそも順応する必要があるのかという命題をめぐるお話。周囲が怒りの感情を失っていく中、怒りこそが人生のエナジーと言わんばかりの主人公の祈りみたいな感情と行動に心を持っていかれた。そんな意固地な主人公に対して夫が放つ言葉も痛烈だった。

「大丈夫。僕たちは、容易くて、安易で、浅はかで、自分の意思などなくあっという間に周囲に染まり、あっさりと変容しながら生きていくんだ。自分の容易さを信じるんだ。僕たちが生まれる前からずっと、僕たちの遺伝子はそれを繰り返して生きてきたじゃないか」

 文庫版だと藤野香織さんによる解説が村田沙耶香論としてキレキレだったので著者の小説が好きな人はマスト!

2023年8月24日木曜日

まにまに

 

まにまに/西加奈子

 くもをさがすを読んで、他にもエッセイも出ていたなと思い出して読んだ。いろんな雑誌で連載していたコラムをまとめたものなので、トピックが多彩でオモシロかった。一気に読んだけど枕元に置いておいて一日一章読むくらいがいいかも。

 前半は著者の日常生活における悲喜交々が描かれていて一章がめっちゃ短いのでサクサク読んだ。変にウケ狙いでもないし自意識炸裂している話が多いので「そう言われればそうやな〜」と思うことが多かった。小説含めて著者の特徴的なバランス感覚として自意識が強い一方でベタなことも照れずに言える強さがあり、だからこそ僕は彼女の言葉に魅了されるのだと思う。また彼女の関西弁は大阪の下町のそれであり、小中学生の頃を毎度レミニスする。実社会で接する機会は大阪に行ってもほとんどないが、本は郷愁に浸る装置でもあるのだなと気づいた。

 個人的には後半の音楽、書籍の紹介がとても興味深かった。書評はよくあると思うけど、小説家が音楽を個人的な体験含めて細かく紹介してくれることなんてほとんどないので超フレッシュだった。ラッパーの田我流が紹介されているのだが腑に落ちたラインを引用。だから『B級映画のように2』は最高のアルバムなのだと思えた。

小説でも音楽でも映画でも、優れたものは、必ず「個」を描いていると思う。社会や歴史や、その他、大いなるものを結果描いていたとしても、決して一人の人間の、その「個」の感情を、おろそかにしていない。だから、全く政情が違った100年前の名作が読みつがれるのだし、思いもよらない未来に、残ってゆくのだ。人間は、これまでもこれからも、ずっと人間なのだから。

 普段音楽日記を書いているが、こういうノリの音楽にまつわる文章をもっと読みたいなと思う。(最近はどう感じたかよりも音楽をラベリングするのに皆が必死だから。)そしてここで知ったDeterminationsというスカバンドが死ぬほどかっこよくてずっと聞いている。あと彼女がApple musicでセレクトした春のプレイリストも最高でBGMとしてよく流している。他のエッセイも読んでみたいと思う。

2023年8月22日火曜日

名もなき人たちのテーブル

 

名もなき人たちのテーブル/マイケル・オンダーチェ

 夏の読書を”Summer Reading”と称したムーブメントを見かける中で、個人的には夏はデカめの海外小説を読みたい気持ちがあり本著を読んだ。『戦下の淡き光』も読んだマイケル・オンダーチェ。詳しい中身を知らずに読んだけど、メインの話は子どもたちが夏の間に客船でスリランカ→イギリスへ旅する話ではからずも夏ドンピシャ。そしてオンダーチェ節炸裂で哀愁ある小説でオモシロかった。

 主人公は11歳の少年で、母が待つイギリスへ客船で移動するあいだに船上で起こるさまざまな出来事が描かれている。興味深いのは全部で59章ものチャプターが用意されていて語り口がかなり断片的なところ。船旅のエッセイのようにも読めるし海外ドラマを見ているときの感覚に近いところがあった。子ども同士の友情、甘酸っぱい恋、よくわからない大人との交流、はたまた悪事に手を染めてしまったり。少年が経験する「一夏の何か」が凝縮されており自分の子どもの頃と重ね合わせて楽しんだ。タイトルが示すように名もなき人との何気ない時間の積み重ねが人生を形成していく。本著を読むとそれがよく分かる。直接的に言及しているラインを以下引用。

面白いこと、有意義なことは、たいてい、何の権力もない場所でひっそりと起こるものなのだ。陳腐なお世辞で結びついた主賓席では、永遠の価値を持つようなことはたいして起こらない。すでに力を持つ人々は、自分でつくったお決まりのわだちに沿って歩みつづけるだけなのだ。

僕たちは、ささやかだが大事なことを理解した。じかに関わらずに通りすぎていく、興味深い他人たちのおかげで、人生は豊かに広がっていくのだ。

 子どもの頃のエピソードの合間に、登場人物が大人になってからのエピソードが挟まれていてる。この大人篇のビターさがとても好きだった。特に子どもの頃は場当たり的な対応が多いのとは対照的に、大人の話は選択の積み重ねが見えてくるから。この構成こそが小説全体の味わいを増していると思う。『戦下の淡き光』も同様だったけど、サスペンス要素をしっかり用意してエンタメ的に楽しませつつも人生の深淵にも物語としてタッチする。この満足度は並の作家では得られない。鮮やかなコバルトブルーの装丁の美しさも含め最高の夏の読書だった。

2023年8月21日月曜日

2023年8月 第2週&第3週

 10連休があり前半はだらっとしていて、あんまり新譜を聞く気分になれず旧譜をのんびり聞いたりしていた。後半は大阪へ帰省する中で新幹線トラブルにガッツリ巻き込まれた。死ぬほど暑い中、1歳児とどこかへ行く難しさを痛感した日々だった。  ネット上でサマソニの動向を見てKendrickは見たかったな〜とか思いを馳せつつも、自分にとっての今年のフェスは「おかあさんといっしょ」のファミリーコンサートだった。全体に作り込まれた演出および出演者たちのプロ意識に感服。お盆休みが終了したので、また今日からディグ道を邁進していきたい所存。

NOT LEGEND by OZROSAURUS

 ついにOZROSAURUSのアルバムがリリース。ZORNのALL MY HOMIESへ加入、盟友DJ PMXとのシングル、KREVA×BACHLOGICとの邂逅を経てのアルバムなので期待しまくっていたけど余裕でその期待を何倍も上回るアルバムだった…AOTY!日本語が第一言語で良かったと思うのは、こんな高純度の日本語の歌詞を存分に楽しめることができるから。変に英語に逃げないでひたすら日本語の可能性を追求している、しかも大ベテランがと思うと胸が熱くなる。明らかにこれまでのアルバムとギアが違っていて抽象度と具体性のバランスが素晴らしくて叙情性が高い、ゆえにラップを聞いた後の余韻も群を抜いている。大人だからこそ書けるリリックであり、ヒップホップと歳を重ねるというのはこういうことかもしれないとさえ思えた。アルバムの中心を担うのはメンバーであるGUNHEADのビートというのは意外だった。鳴りも最高だしオーセンティックさを持ちながら古臭くない絶妙なバランス。Oliveoilも参加していて「すわ、ビートとラップの後ろノリ合戦か?」と思いきや、どストレートなピアノループかつビートもオンなのは意外だった。ここから聞き込んでいきたい。

United Queens by Awich

 Badbitch美学がスマッシュヒットしている中で、そのメンツにCyber Rui、MFSも加えてフィメールならぬクイーンたちが集うEP。女性のラッパーでEPを作る、それがめちゃくちゃかっこいいというのはそれだけで隔世の感がある。Awichは女性をエンパワメントする存在として世間的にも認知されていると思うが、その方法として男根主義に中指立てる、揶揄するスタイルなのは男なのでウッ!とはなった。ただこういうカマシがないと社会は変わっていかないので良いことかな。好きな曲はCyber Ruiを迎えたドラムンベースの”Shut Down”

Sundial by Noname

 5年ぶりのアルバムリリースとなったシカゴのラッパーNoname。mixtapeでシーンに登場し、その後はJ.Coleとのbeefなどがあって、それ以来音沙汰なかった中、今作はめちゃくちゃ好きだった…生音でオーガニックなサウンドのバランスが今どき見かけないものだからこそ超フレッシュに聞こえた。ビートのBPM帯も100-110前後で全体を構成されているのも非常に軽やかで好き。リリックもちゃんと読み込みたい。やはりいいものを作るのには時間がかかるという、サブスク時代だと忘れられがちな当たり前の事実に気付かされることが今年は多い気がする。インスタントに作りまくるのもいいが、傑作を作り末長くたくさんの人に聞かれるのを目指すのも一つのスタイル。好きな曲は2023年にまさかのミドルな”namesake”

Live at RBC Echo Beach by Khruangbin & Men I Trust

 KhuruangbinとMen I Trustのスプリットライブ版という珍しい作品。ライブ版かつ2バンド収録で38分の構成というのが新鮮。ライブ版は長い尺をとりがちだし、ストリーミングになり収録時間の上限がなくなった中でフェスの尺くらいで聞くのはどうなん?と思っていたけど意外にいい。しかもこの組み合わせがこのクソ暑い真夏に家でChillするのにマジで最適…体感2度は下がると思う。(個人的感想)Khuruangbinはこの短い尺のライブシリーズを後2作品出していて、そっちも調子良かった。

POP A LOT by Sik-K

 HAONとの共作”ALBUM ON THE WAY”の公約どおり(?)フルアルバムがリリース。H1ghr抜けて自身のレーベルを作りライブを含めて精力的に活動している印象がある。17曲入りでボリューミーかつ色んなスタイルの楽曲が入っていてかっこいい。歌フロウ多くて聞きやすいけど、もうちょいハードなスピット系も入っていて欲しかったのは個人的な願望。そんな中で好きな曲はダブステップっぽさを感じるビートでスピットしている”THE SIK”

The Predator by Fleeky Bang

 Fleeky Bangが1stアルバムをリリース。前哨戦のLil Moshpitことフィミンとのアルバムも素晴らしかったけども本作も現行USを意識したスタイルでめっちゃかっこよかった。ドリルで名を馳せたけれど、ドリル一発屋にならないように今回もトラップも入っているし、メロウモードで歌ったりもしている。そんな中でもやばかったのは SUPERBEEを迎えた”Dirty&Rich” トラップなんだけどドリルなベースの入れ方が倍速になっていてかっこよい。また新しいスタイルになるかも?

The Lost Diary by UNE

 BewhYのDejavu groupのUNEがEPをリリース。Dejavuのクルーだとハードなラッパーが多い中で彼女の声はアクセントになっていて結構好きだったのだけどソロ作品も素晴らしかった。ファンク、R&Bの要素をビシバシ感じるタイプのK POPでとても好き。いくら音楽的な背景が芳醇だとしても、年端もいかない女の子たちの音楽をおじさんたちがこぞって楽しむ構造にはいつまでも慣れない。そういうのばっかりが評判になりがちだけど、こういうマチュアで素晴らしい音楽も聞かれてほしい。好きな曲は”It’s a good thing”

2023年8月12日土曜日

千の扉

 

千の扉/柴崎友香

 日本の小説を読みたいモードになったので読んだ。著者の作品は好きなので、大切に少しずつ読み進めているのだけど本著もオモシロかった。時間と場所のレイヤーを駆使して人を語る小説となっていて、社会学におけるエスノグラフィー的な語り口とも言えて興味深かった。

 東京の団地が舞台。都心に近い立地の団地で、開発が進む周辺から取り残された場所で生きる人々の生活が語られている。主人公はある夫婦なんだけども彼ら以外にもたくさんの人物が登場し、この人たちは実在しているのでは?と思うくらいにそれぞれキャラが丁寧に描き分けがされている。そのため、ある街の様子を目の当たりにしている感覚でするすると読めた。さらにその人物たち、ひいては街の過去を掘り下げている点が本著のオモシロいところ。時間が積み上がった結果、今があることを強く意識させられた。「人に歴史あり」とはよくいったもの。人それぞれに過ごしてきた膨大な時間が存在し、それが『千の扉』の向こう側に存在すると言われると、何気ないマンションとかアパートを見る目が変わってくるのだから小説は不思議なものだと改めて思った。

 また女性の生きにくさも裏テーマとして存在しており、いろんな場面で割を食う場面が描かれている。それは夜に歩く危険性、子どもを産むことの当事者性、親の介護など多岐にわたる。振りかぶって書かれているわけではないので読んでいるあいだは一つの場面なのだけど、読み終わったあとにテーマとして浮かび上がってくる構成がかっこよい。文庫版には社会学者の岸政彦氏の解説が付いていて本著の一部を引用して展開する論点が興味深かった。