2021年9月1日水曜日

わたしたちが光の速さで進めないなら

わたしたちが光の速さで進めないなら/キム・チョヨプ

 前から気になっていた1冊で早川のセールで半額でゲトって積んでいたのを読了。韓国SFという個人的には完全な新しいジャンルの小説だったけど新鮮でめちゃくちゃオモシロかった。USのケン・リュウ、テッド・チャンの系譜にありながら、今の社会に存在する構造的問題を大胆に取り込んでいるところが良かった。物語としてのオモシロさは担保しつつ読者に思考を促していくスタイル。
 短編集でどれもオモシロいのだけど1つめの「巡礼者たちはなぜ帰らない」からしてぶっ飛ばされた。欠陥のない完璧な社会では愛が生まれないのでは?という問題提起の話。すべてを肯定し、愛する力強さをこんな形で感じさせてくれることに驚いた。データに基づいて多様性の重要さを伝えるのもいいけど、小説にしかできない役割もあるなと思える。
 「スペクトラム」はエイリアンミーツな定番の話もあるのだけど、同じようなテーマから一捻りした「共生仮説」が好きだった。赤ちゃんの記憶とエイリアンをかけあわせつつ、人間の懐かしいと感じる感覚はエイリアン由来なのでは?エイリアンはそこにいるし、ずっといたみたいな。SFは基本未来の話が多いけど、現在をSFで捉え直す視点がフレッシュ。そしてタイトル作は会いたくても会えない切ない話で、その中で好きだったラインを引用。

「わたしたちは宇宙に存在する孤独の総量をどんどん増やしていくだけなんじゃないか。」

 そして本作を特徴づける「わたしのスペースヒーローについて」「館内紛失」これらは女性のキャリアに関する社会の構造的問題とSFをかけあわせた短編。「82年生まれ、キム・ジヨン」ほどダイレクトではないのだけども、女性であること、母親であることが産む苦しみやプレッシャーに想像を巡らして、それをSFへと昇華させていく。女性の視点だからこそ描ける小説だと思う。個人的には「館内紛失」の方が近い未来な気がして好きだった。ここ数年で韓国文学が大量に輸入されているけれど、その中でもおすすめしたい1冊。(確かラッパーのC.O.S.Aもおすすめしてた) 

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