2022年12月8日木曜日

イリノイ遠景近景

 

イリノイ遠景近景/藤本和子

 印象的なタイトルと表紙に惹かれて読んだ。近過去なおかつ異国における経験をつづったエッセイを読むのが久しぶりで新鮮でオモシロかった。

 タイトル通りイリノイ州シャンペーンで生活する中で感じたことを徒然とつづっている。いわゆるカントリーサイドでの生活で派手なアメリカライフというよりローカルなアメリカの当時の空気を身近に感じることができる。それはカフェやドーナツショップでの街の住人たちの会話であったり、友人との旅行であったり、シェルターでの仕事であったり。観察眼の鋭さと落ち着いた文体が読んでいて心地よかった。どのエピソードも人が生きることへの興味が尽きないように思えたし、著者の生きることへの以下ラインが刺さった。

都会の雑踏や賑わいの中にいると、のびのびした気分になったものだった。うきうきした気分になったものだった。(中略)でもうきうきしてるだけじゃ生きていけないからねえ。 わたしもいよいよ生きなければならないのかな。そのためには息をする空間も必要なのかもしれない。子供までいるのだから。そう思って駐車場を眺めわたす。するとにわかに、ふん、この荒涼たる醜さも結構なのかもしれない、という映画の台詞みたいな言葉が頭にうかんだ。

 あと著者の友人の以下ラインも生きることへの問いかけだと思う。

あたしが繋がれているのはこの街路だ。なのに、あたしは何をしている?大学院にまでいって、修士号までとって、結構な話だけど、あたしが繋がれているこの街路にとって、あたしは何者だろうか。

 後半は著者によるインタビューがいくつか収録されており、これがかなり読み応えがあった。ユダヤ人やアメリカ先住民など迫害された人々にフォーカスしている。社会的に弱い立場になったときに何が起こるのか、格式張らないトーンで友人同士のような会話形式で書かれているので読みやすいし実感をもちやすかった。今でいえばポッドキャストを聞いているような感覚。著者は翻訳家としても活躍しつつ、本著の後半部のような、アフリカンアメリカンへのインタビュー集が二作文庫で出ているようなので読んでみようと思う。

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