2022年1月6日木曜日

バタフライ・エフェクト ケンドリック・ラマー伝

バタフライ・エフェクト ケンドリック・ラマー伝/マーカス・J・ムーア

 ケンドリックの自伝とのことで読んだ。ここ4年ほどリリースがないのですっかり彼の音楽について考える機会がなくなっていたけど、本著のオモシロすぎる話の連発で過去作を順繰りに聞きまくる毎日である。一体彼がどれだけのインパクトをヒップホップに、アフリカ系アメリカンの社会/意識に、すべての持たざるものたちに与えたのか?それがよく分かる1冊だった。

 本著ではケンドリック本人に直接インタビューは取っていないものの、web上に残っている彼の発言のアーカイブと周辺アーティストの取材で構成されていて、それだけでも知らないことが山ほどあって勉強になる。全く方向性の異なる各アルバムをどのように作っていったか?その過程がかなり詳細に書かれていてそこが一番オモシロかった。特にTPAB製作時に起用されたミュージシャンたちやハウスプロデューサーであるサウンウェイブらの各証言がこれだけまとまっているのは本当にありがたい。ケンドリックが圧倒的なラップ力、リリシズム、そしてプロデュース力でヒップホップゲームのルールを書き換えたのは周知の事実だけども、サウンド面でもどれだけ新しいことに取り組んできたか?がよく分かる内容になっている。

 ヒップホップといえば、フレックスしている様をひたすら同じようなサウンドで表現し続けて人気が出れば同じスタイルで柳の下の二匹目のドジョウをいなくなるまで取り続けるカルチャーだけど、ケンドリックは各アルバムで全然違うことをしてくるのが本当にかっこいいと思う。スタイルやサウンドが変わっていく中でもコアにあるヒップホップの価値観を大事にしている点もかっこいい。コンプトン、アフリカ系アメリカン、アメリカ合衆国と自分をレップする要素について煮詰めまくってラップというフォーマットで上手いこと、かつかっこよく表現できるのは本当に最高のラッパーだなと思う。

 ストリーミングサービスの開始によってアルバムの価値観が理解されなくなりつつあるけど、やっぱりヒップホップはアルバムというフォーマットで表現できる価値観が多分にあるなと今回改めて感じた。他のケンドリック本を読んだりして次のアルバムを待ちたい。 

0 件のコメント: