2022年3月6日日曜日

父と私の桜尾通り商店街

父と私の桜尾通り商店街/今村夏子

 個人的に盛り上がりが止まらない今村夏子作品。本著も楽しんで読むことができた。人生の何とも言えない場面を切り出して物語化する才能が溢れているのは健在。過去作品と打って変わってかなりファンタジー寄せな「ひょうたんの精」「せとのママの誕生日」という変化球も収録されておりさながら幕の内弁当だった。

 とはいえ、やはりメインとなるのは子どもの素直さとそれに対する大人の欺瞞。「白いセーター」「モグラハウス」「父と私の桜尾通り商店街」この3作品はどれも後味が「今村夏子〜」と言いたくなるような話でめちゃくちゃオモシロかった。全部微妙にテーマが違うのだけど既視感のある場面できっちりドラマを用意してくれているのが毎度ながら最高。難しい言葉で難しいことを書くことよりも平易な言葉で簡単なことを書くことの方が難しい。これはよく言われることだと思うけど著者の作品を読んでいると特に感じる。表題作は新規軸だった。商店街で村八分にあっているパン屋の娘が主人公で、父が店をたたもうとする中で起こる逆転。既存の価値観は放り投げて新しい価値観へ進み始める表現としてこんな物語が書けるなんて。。。村社会はクソと誰でも言えるが、そのクソとどう共に生きるのか?その未来の一歩手前で終わる物語の切れ味に鳥肌がたった。 

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