2021年6月19日土曜日

個人的な三ヶ月 にぎやかな季節

 

個人的な三ヶ月 にぎやかな季節/植本一子

  新刊出れば必ず読んでいる著者の日記。今回は2021年1-3月の日記で毎度のことながらとてもオモシロかった。自分とは全く異なる生活範囲の人がコロナ禍でどのような生活をしているのか?フルテレワークで家を出ず、基本人と会わない生活を続けている身からすると著者はとてもアクティブに思える。それを決してジャッジしたいわけではなく、アクティブに動いた結果、友人や仕事仲間など著者を含めた周りの人の生活を伺い知れるのが過去作になかったオモシロいところだと思う。仕事の種類によってインパクトは全然違うことが生々しく伝わってくるし、行動を拘束される息苦しさを打破するために友人と会い話をする。コロナ前では当たり前にあったことの重要さが伝わってきてこちらの心も晴れる気持ちだった。
 過去作からずっと読んでいる身からすると、やはり長女のスマートさに驚かされた。大人がなんとなく誤魔化しているところを一閃。それが芯をついていて全然嫌味がない。当然日記に書かれている彼女は断片的な存在で、著者の巻末の言葉を借りると「いない」のかもしれないけれど、どんな大人になっていくのだろうかと気になる。またこんな彼女が大人になって著者の作品を読んだときにどう思うのか。(もうすでに読んでいるのかもしれないが)あとはコロナ禍の小学生の生活のリアルがしこたま書かれていて、子どもたちがこれだけ我慢させられているのに「大人の運動会は盛大に開催したい」というのは死んでも受け入れたくないなと思えた。
 そして最大のテーマと言って過言ではないパートナーとの関係について。結婚制度自体に疑問を呈す著者と結婚したいパートナーのせめぎ合いとお互いの意見を交換していく過程がとてもスリリングだった。制度としての結婚だけがゴールではない、と口でいうのは簡単だけど、その実践は相当難しいことなんだなと感じた。でもなぜ難しいのかと言えば、それは社会の構造だったり周りの同調圧力なんだよなーという思考の無限ループに突入する。このループから連れ出してくれたのは卒業式の風景だった。日記で読んで、NHKの映像で見て、皆が自由に生きたらええねん!となった。
 自分との関係についてこれだけストレートに書かれた日記をパートナーが事前に読むことを拒むのは素直な反応だなと思った。しかしラストのあとがきで全てが昇華されながら本の装丁の物理的な仕掛けと連動していて心をグッともっていかれた。やっぱり日記は最高!

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