2025年11月13日木曜日

田我流 ONE MAN LIVE TOUR『流 ~ながれ』東京公演


  田我流のワンマンライブが東京で開催されると知り行ってきた。田我流のライブは2012年『B級映画のように2』のリリパ@WWW、2018年に開催されたCINRAのイベント以来。音楽的に大きな方向転換を果たした『RIDE ON TIME』以降のライブは初めてだった。彼がその間に探求してきた「ヒップホップ道」をしかと感じる本当に素晴らしいライブだった。

 18時45分くらいに会場に着いたのだが、幕前BGMがラジオ形式でNORIKIYOがゲスト出演しているタイミングだった。二人のフランクなトークと共にエクスクルーシブなNORIKIYOのビートジャックが流れてバイブスは満タン。幕前BGMでラジオというのは理にかなっていて、立って待つときの退屈しのぎにベスト。単純なDJではなく、そこで流れる曲に対する田我流の思いも聞けてよかった。ライブ前の待ち時間は持て余すことが多いので、他のラッパーも真似して欲しい。

 また、他にも田我流のエポックメイキングなスタイルとしては、ライブのセットリストを事前に開示しているところだ。当然、一部の曲はマスクされているが、これによって観客たちは事前に盛り上がるための予習ができる。観客たちもライブを構成するバンドメンバーという認識があることが、こういった振る舞いから伝わってくるし、実際、観客の盛り上がりはやべ〜勢いだった。

 息子であろうBIG5LOWによるラップが流れてライブがスタート、まさかの1曲目はビートジャック。Camp Lo 「Luchini」のビートの上で縦横無尽にラップする田我流。今回はパーカッション、トランペット、テナーサックス、バリトンサックス、MAHBIEのターンテーブルという半生バンド編成。「Luchini」はそんなホーン中心の編成が最も映えるクラシックなヒップホップビートである。ここに田我流の温故知新スタイルが端的に表現されており、原曲は1997年リリースだが、2025年仕様の現行のフロウでラップしているあたり、田我流が田我流たる所以と言える。

 当然オケオンリー、マイク一本で魅せていく。ラップが上手いのは当然として、MCを含めてライブの構成が素晴らしかった。チルなムードを演出するのもうまいし、アッパーモードで盛り上げるのもお手のもので、ライブ内での緩急が本当に見事だった。ゆえに本人が繰り返して唱えていたとおり、ライブが「光陰矢の如し」であっという間に終わった印象だった。

 前半はトランペッター黒田卓也が大きくフィーチャーされたEP『Old Rookie』の曲を中心に、前述のホーン部隊が活きる曲を立て続けに披露。なかでも「TARAREBA」のライブでの爆発力がとんでもないことになっていて、ホーンアレンジによってBrasstracksを彷彿とさせるもので原曲にない勢いが加わり爆発していた。

 アレンジの観点でのハイライトは「サウダージ」だろう。ツアータイトル「流」の元ネタとも言える曲で、原曲ではギターが担っていたメロディを同じくホーンでアレンジ。トランペット、テナー、バリトンの三発の重奏的なホーンサウンドは楽曲の新たな魅力を引き出していた。他の楽曲ではサブの役割が強かったパーカッションも、この曲ではここぞとばかりにコンガを叩きまくり。原曲がもつラテンのノリがより強調されていた。この曲に限らず、さまざまなアレンジがライブで施されているのだが、それは田我流が自身でビートメイクを手がけるようになったことが大きく影響しているだろう。ラッパーというより、一音楽家という側面が強くなっており、シェイカー、口笛、フィンガースナップを本人がこなすという、ラッパーとは思えない楽器的な引き出しをこれでもかと披露していた。

 一番とんでもないことになっていたのは「やべ〜勢いですげ〜盛り上がる(REMIX)」→「Ride On Time」小学生の頃、プールでやった「洗濯機」よろしく、フロアにいる人間が反時計回りに動いていくという新たな形のモッシュ。後方で見ていたものの「自分も渦に飲み込まれるの?!」という興奮と恐怖が錯綜する気持ちになった。(実際にはギリ手前で巻き込まれなかった。)REMIXという名のとおり、ハードコアバンド調のアレンジが挟まれ、そこにFlat Line ClassicsのBIG FAFが肩車要員として登場、田我流と合わせて3m超級の熊を彷彿とさせる大きさになり、観客をアジテートしていた。そして「Ride On Time」この規模のライブハウスでトラップの楽曲が最大限に盛り上がると、こんなに床が揺れるのか!と心底驚いた。そして、曲のブリッジで旧レーベルメイトであるLEX「力をくれ」を引用していたことにも驚いた。こういう粋な仕掛けがたくさんあるのも田我流のヒップホップIQの高さを感じた。

 その点でいえば「JUST」は Madvillain「Acordion」のビートジャックでを披露。終演後に飲みに行った友人の話で納得したのは、田我流は昔の曲を大事にしているという指摘であった。「JUST」は1stアルバムの曲であり、別にやらなくてもおかしくない。しかし、ロイヤリティの高い昔からのファンに向けて、単に昔の曲をやるだけではなく、きちんとヒップホップ的アレンジでフレッシュなものにして聞かせてくれる。こういった細かい気配りがあるからこそ、田我流を長い間好きでいられるのかもしれない。そして「JUST」は歳を重ねた今聞くとグッとくるものがあった。

 この日は客演なしの文字通りのワンマンライブであった。客入れBGMのラジオでNORIKIYOが出演していた時点で「今日は出ないのかも…」と思っていたが、「風を切って」の前に本人からのコメントが流れ、出演しないことが告げられた。二週間後にあるELIONEのワンマンライブに出演するが、こちらには来ないのかと思うと悲しい気持ちにはなった。ただMCでもあった通り今日は一人でやり切ることを目標にしていたのだろうし、統一感という点でみると満足度は高かった。客演ではないが、今回は「EVISBEATS DAY」と言わんばかりのセトリで、EVISBEATS×田我流ワークスがコンプリートで聞くことができた。「ゆれる」から始まったコンビネーションだが、まとまって聞くとこの二人の黄金コンビっぷりが伝わってきた。

 ゴリゴリのB-BOYはもちろんたくさんいたのだが、コインロッカーでは学校帰りの女子高生、フロアではスーツをまとったサラリーマン、ノリで入ってきたであろう海外からの旅行客、クラブ常連のギャルなど、私の周辺には本当に多種多様な人がいた。これは田我流が音楽を通じて伝えてきたメッセージが立場を超越し、どんな観客をもロックし続けてきたことの証左だろう。年に一回は東京でライブしたいとのことだったので、まとまった作品が出れば、またライブに遊びに行きたい。

※セトリは全く自信ないです。。。間違いなどありましたら、ご指摘いただけると大変嬉しいです。

0 件のコメント: