2022年2月12日土曜日

星の子

 

星の子/今村夏子

 映画公開のタイミングであらすじを知って興味が出てKindleで購入するも積読したままだったので読んだ。こんなに記憶の深いところにタッチしてくる小説は久しぶりでとても好きだった。

 あらすじとしては両親が怪しげな水のマルチ・宗教に取り込まれた娘(次女)が主人公。彼女の視点が絶妙にリアルで惹きつけられた。どんどん宗教に入れ込んでいくことで長女が家出したり家庭が崩壊していくのだけど、過酷な環境で生きる子ども側にとってはそれが当たり前の人生。ゆえに両親のことは嫌いにならないし何なら守ろうとまでする。その健気さが余計に辛い…単純な正論では気持ちを救うことができないのだよなと感じた。

 自分の家という井の中から社会(学校)という大海へ出るとき、ただでさえそこにはギャップがあるけど、上述のようなさらに重いハードルを彼女は背負っている。底抜けに暗くなりそうなのにそうはならない。それは会話描写が多くて別にたわいもないからこそ。物語の肝になることを登場人物のセリフで言わさないのも粋で本当に既視感が凄くて中学生の頃の友人との会話としか思えなかった。その素朴さも相まってめちゃくちゃシュールな笑いになっている場面があった。それはある人物が公園で見かけた夫婦が主人公の親だと知るシーンで思わず笑ってしまった。小説で笑うことはほとんどないからやはり会話描写スキルがハンパないのだと思う。一方で子どもの描写が超リアルなことで大人のえぐみ、残酷さも強烈に感じた。自分たちの都合だけで行動する身勝手な存在という要素がかなり強い。自分がいい意味でも悪い意味でも大人になってしまったのだなと痛感した。

 ラストの描写がタイトルを回収するようなシチュエーションなんだけどめちゃくちゃ不穏。絶対良くないことが起こるだろうムードを演出しまくって、それを最後回収しないところは薄氷の上だとしても家族は家族なのだという最低限の思いやりなのか。他の作品もすぐに読んでみたい。

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