モールの想像力: ショッピングモールはユートピアか/大山顕 |
ジュンク堂の書店員が選ぶノンフィクション大賞2024ノミネート作品は、何かノンフィクションを読みたいときに参考になる。その中でタイトルを見て一番惹かれたので読んだ。ここ1、2年で最も訪れている場所がショッピングモールなのだが、本著のモールに対する解像度の高さは想像もしない視点の連続で知的好奇心を大いに刺激された。均一化の文脈で語られがちなモールは、そのフェーズを終えて新たな存在へと変貌している、そんな貴重な瞬間を見ていることに気付かされる一冊だった。
日本橋の高島屋で開催された「モールの想像力」という展示会を書籍化したものになっており、著者の文章だけではなく、漫画や対談なども含まれており、まさしく展示会を擬似体験できるような構成が興味深い。冒頭にある論考が掴みとして抜群で、モールの歴史をおさらいしながら、古今東西のモールを舞台にしたカルチャーを膨大に引用し、モールの存在を立体的に描き出しており、その視点の新鮮さに何度も唸った。個人店で構成されていた商店街を駆逐した悪役、資本主義の象徴としてモールが語られる場面が多いが、車社会の到来による社会構造の変化に伴った人間同士のコミュニケーションを活発化させるための施策、つまりは都市論としてモールを捉える視座が必要なことに気付かされた。ただ、ここでいうコミニュケーションはやりとりを含むウェットなものというより、人がたくさんいる環境、すれ違うレベルの薄いコミニュケーション、つまりは公共であり、ストリート(商店街)を再現するものである、という一連の論考が見事すぎた。
ヒップホップ好きとしてMall Boyzのことはやはり外せない。本著内でももちろん言及されている。ヒップホップにおいて、フッドをレペゼンすることは重要な価値観、美学であるわけだが、Tohjiは特定の街ではなく、モールという建造物、概念をレペゼンすることで世界各地にいるモールっ子たちを夢中にさせている。今の10〜30代前半くらいまでの人たちにとっては、モールはノスタルジーの対象であり、それより上の世代が商店街に対する抱く気持ちと同じ感情を抱いているという指摘は驚いた。そして以下ラインに象徴されるように、均一化しているからこそ、場所を問わずに連帯できる、コードカルチャーとしてのヒップホップ的価値観に改めて気付かされた。
同じだけど、違う、違うけど、同じっていうすごさ。その機微は彼らにしかわからない。他人はあとからしか発見できない。
後半には漫画や対談が載っており、対談が特に興味深かった。既存のモール論がいかに古びたもので、時代が進んできているのかよくわかる。著者と東浩紀の対談は鋭い視点の連発で唸りまくり。東氏は「幻想」と呼んでいたが、「理想」をみんなで共有することの公共性が失われて、「現実」という名のバックヤードばかりが跋扈する世の中が豊かになるわけがないという論点は、ここ数年感じていたことだった。また、郊外の象徴であるモールが、近年は都心部にも侵入してきており、特に渋谷の再開発をめぐる議論は、渋谷へ行くたびに感じていた違和感が見事に言語化されていた。2016年にリリースされた著者と東浩紀による新書があるらしいので、そちらを次は読みたい。
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