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| 1985年のクラッシュ・ギャルズ/柳澤 健 |
著者の本をここ1年ほど積極的に読んでおり、レコメンドもあって読んだ。全日本女子プロレスについては世代的に門外漢だが、プロレスというジャンルの業の深さを知るには最適な一冊だった。
タイトルにある「クラッシュギャルズ」は長与千種、ライオネス飛鳥による女子プロレス界の伝説的タッグ。本著は2人の来歴を評伝としてたどりながら、全日本女子プロレスを中心とした女子プロレス史の栄枯盛衰を描いている。
今回読んで初めて知ったのは、若手向けタイトル戦では押さえ込みによるガチ決着が行われていたことや年間250試合をこなす過酷な労働環境だった。そんな世界では、フィジカルに優れたライオネス飛鳥が圧倒的な強さを見せ、長与千種は三下に甘んじていた。しかし、長与はフィジカルや技術がなくとも観客の心を掴む能力に長けていたことで徐々に頭角を表していき、最終的に2人がタッグを組んでスターになっていく過程が興味深い。演出家としての長与、それを圧倒的フィジカルで体現する飛鳥のコンビが熱狂的な人気を生み出して国民的スターになっていくのだ。今ではコンテンツの細分化が進み、世代を超えて共有されるスターはほとんど存在しない。だからこそ、女子プロレスラーが国民的スターだった時代があったという事実には隔世の感があった。
さらに面白かったのは、当初は飛鳥が上だった立場が徐々に逆転し、雑草タイプの長与が飛鳥をまくっていく過程だ。プロレスは勝敗だけを競う競技ではない。観客を巻き込み、その場の熱狂を生み出してこそ価値がある。フィジカルエリートよりも、会場の空気や観客心理を読み切れる人間が頂点へ上り詰めるという構図は、通常のスポーツではなかなか見られない。そこにプロレスならではのドラマやロマンがあり、人を惹きつけてやまない理由なのだと感じた。
そして、本著最大の特徴は、クラッシュギャルズを追い続けた一人の女性の人生が並行して描かれることだ。学生時代に女子プロレスへ熱狂し、親衛隊を経て、やがて記者となる。彼女の人生とクラッシュギャルズの栄光と衰退が重なり合い、単なる評伝では終わらない奥行きを作品にもたらしている。彼女のパートは一人称ではなくインタビュー形式で構成されているため、自身の人生を客観的に振り返る落ち着いたトーンになっており、クラッシュギャルズの熱量あふれるパートとのコントラストも素晴らしかった。
クラッシュギャルズの衰退とともに女子プロレス人気も下降し、その中で試合内容がより過激になっていく点も印象に残った。男子のプロレスの方が危険なイメージを持っていたが、著者によれば当時の全日本女子プロレスは「世界で最も危険で陰惨で殺伐としたプロレス」だったという。人気を取り戻そうとする焦りが、より刺激的な表現へとエスカレートしていく構図は、SNS時代特有の現象だと思っていた。しかし、人気商売である以上、その構図自体は昔から変わらないことがよくわかった。
私にとって女子プロレスラーといえば、バラエティ番組で活躍するタレントという印象が強い。北斗晶やジャガー横田も、リング上で戦う姿よりロケ番組に出演している姿の方が思い浮かぶ。しかし、彼女たちがリングで経験してきた壮絶な日々を知ると、「人に歴史あり」という言葉が自然と浮かぶし、一気にリスペクトが増した。特にジャガー横田の先輩として義理人情を貫く姿勢には胸を打たれた。何事もコストパフォーマンスが優先されがちな時代だからこそ、そうした振る舞いがより熱く感じられた。
NETFLIX『極悪女王』を見たり、井田真木子『プロレス少女伝説』を読んだりして、この時代の女子プロレスの世界をもう少し深く味わってみようと思う。




