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| 戦争犯罪と闘う 国際刑事裁判所は屈しない/赤根智子 |
新書は滅多に読まないのだが、最近は駐車場代を浮かせるために本を買う必要があり、SNSで見かけたことをきっかけに読んでみた。国際刑事裁判所(ICC)について詳しく知ることができる新書的な役割だけではなく、大義のもとに仕事を完遂しようとする著者の高い志がひしひしと伝わってくる1冊だった。
著者はハーグにあるICCの所長を務めており、彼女の来歴を交えながら、その仕事内容や意義について書かれている。近年はロシアによるウクライナ侵攻や、イスラエルとパレスチナをめぐる紛争に代表されるように、戦争や武力衝突が絶えない。そんな状況で国際的な法秩序のもと、第三者機関であるICCが彼らの戦争における重大犯罪を捜査、裁判するケースが報道されている。著者はそのトップとして、日々汗をかいて仕事をしている様子が伝わってきた。
本著を読むまでは、ICCについて「たしか教科書で見たような気がする…」くらいの認識だった。しかし、その役割や成り立ち、実際の業務について、著者が柔らかな語り口で丁寧に説明してくれるので、法律に明るくなくても理解を深めることができた。
本著が刊行された時点で、ロシアに指名手配されていたわけだが、今年の9月にはアメリカからも制裁対象とされてしまった。本著内でも繰り返し取り上げられているアメリカ(というかトランプ)の横暴っぷりは目に余るものがあるのだが、まさに著者が危惧していた事態が現実になろうとしている。
そもそもICCが発足した背景には、戦争犯罪を戦勝国が一方的に裁くのではなく、第三者機関が司法の場で裁くことで、公平性と法の支配を担保するという理念がある。しかし、近年のアメリカ、ロシアに代表される大国は、ICCに加盟していないこともあり、国際的な法秩序よりも自国の力を優先する姿勢を強めている。そうした大国によるICCの無効化ともいえる動きに対して、著者が精一杯踏ん張っていることが、ひしひしと伝わってくる。
ICCの歴史や存在意義ももちろん興味深いのだが、本著の最大の魅力は著者の仕事の話や来歴にある。前者については、実際にどのように仕事を進めているのかがかなり具体的に描かれており、まるでICCの仕事場を訪問したインターンになったような気分で読んだ。自分とはまったく異なる業界で、しかも国際的な舞台で働く人の仕事の進め方を知ることができるのは単純に面白い。
一方、後半で語られる著者自身の来歴からは、とにかく恐ろしく優秀な人なのだということがわかる。それほどの能力と実績を持つ人でさえ、日本社会のジェンダーギャップに苦しんできたという話には胸が痛んだ。実際に自身が経験してきたことだからこそ、単なる机上の空論ではない説得力がある。特に80年代から2000年代あたりまでの女性差別の実状には、改めて驚かされた。そうした幾多の困難を乗り越えながら、社会のために自分の仕事をまっとうしようとする著者の姿勢には、ぼーっと仕事をしている自分としては身が引き締まる思い。
ICCに対する拠出金額は日本が一番大きいらしい。だからというわけではないが、平和国家として法の支配をリードするような役割を国際社会から期待されていることが伺えた。日本がトランプの「力による支配」の理論に同調することなく、国際的な法秩序を守る側として毅然とした態度を取ってくれることを切に祈りたい。(今の政権にはまったく期待できないけど。)






