2023年3月28日火曜日

2023年3月 第4週

Can I Not ? by Cosmic Boy

 今週前半はKorean R&Bをまとめて聞いていた。そのうちの1枚でCosmic Boyというプロデューサーのアルバム。ど直球な韓国スタイルのR&Bもしくはkポップのバラードという感じ。個人的にはもうちょいレイドバックなノリが好きかも。ベストトラックは盟友OLNLを招いた“Life is good”

UNSTEADY by TRADE L

 Big Naughtyの後を担うh1ghr musicの若手筆頭株のTRADE LによるEP。昨年のアルバムもかっこよかったが、今回は特にメロディの美しさ、しっとり感といえばいいのか、R&Bにかなり寄せているように思う。”Die Tonight”みたいなラップと歌のバランスが個人的にはベストだと思う。(最近のBig Naughtyにあんまりノレないので、同じ方向には進まずヒップホップ性を残しておいて欲しい)好きな曲はRad Museumがパイセンとしてかましている”Body Language” Twerk!

MADE IN SEOUL by DON MALIK

 SMTM11で一部でプロップスを急激に失ってしまったDON MALIK のアルバム。すべてを取り返そうとするかのような原点回帰のアルバムであり、SMTM11で見たものはすべて夢だったのか…彼がポップサウンド、EDMサウンドでラップしたから嫌だったわけではなくシンプルにださい曲としか言いようがなかったわけだが、今作にはそんな駄曲はもちろん1曲も入っていない。レーベルのボスであるThe QuiettがHookを歌う”MADE IN SEOUL” のいなたい音と彼のラップからは覚悟を感じた。SMTM11で披露した鬼の60秒バースこと”Less Friends”は改めて聞いても2020年代の韓国ヒップホップの最高到達点だと思う。SMTM11が単なるファン層の拡大という意味だったと、ある種証明されたような形なので次の作品も楽しみにしたい。好きな曲は”Zeel2”

AP Alchemy : Side A

 Swingsが既存のレーベルをまとめあげたAP Alchemyがついにコンピをリリース。まさに錬金術というかいろんな才能が転がっていて、それらを組み合わせて新たな側面を見せてくれるいいコンピだった。ビートがいろんなパターンがありながら、それぞれちゃんとドープなのが並のコンピとは違う点。ヒット狙いに見える安パイみたいな曲が1曲もない。 それを象徴するのがMVもリリースされた”No One Likes Us” このスケールでDopeなことをやれている点がSwingsのビジネスマンとしての素晴らしいところ!もちろんこの曲がNo.1 favorite.

SCARING THE HOES by JPEGMAFIA & Danny Brown

 聞いててクラクラするとんでもない情報量で最高だった。これこそヒップホップマジックが炸裂している作品だと思う。ビートはJPEGMAFIAがSP404のみで作り上げたらしくサンプリングソースは日本のCMとかゲームとかまでごった煮になっていて、そこに重たいドラム。イカれたビートに叩きつけるような2人のラップがめちゃくちゃかっこいい。グチャグチャなことは誰でもできるかもしれないが、それを音楽としてカッコよく仕上がっているかどうか、それはもうセンスでありスキルで何かカバーできることはない。誰かの模倣ではルールは変えられないことを心底感じる作品。好きな曲は同名ゲームサンプリングの”Kinddom Heart Key”

Since I Have A Lover by 6LACK

 6LACKの新しいアルバム。サウンドのモードが明らかに変わっておりアコギを多用しているからなのか抜けのいい曲が多くて昔の作品よりも本作の方が好き。夜聞くR&Bってイメージだったけど本作は比較的シチュエーション選ばずに聞けると思う。好きな曲はドリルなドラムパターンのノリと上音のアトモスフィアが最高に気持ちいい“Talk”

Ways of Knowing by Navy Blue

 Navy BlueがDef Jamからアルバムをリリース。総合プロデューサーにBudgie Beats、一部楽曲にはOm’Mas Keithがプロデュースしているからか、ビートが以前よりも比較的ポップで聞きやすくて好きだった。朴訥なラップでレイドバックしているフロウを聞くと、結局こういうのが好きなんだよなと納得した。改名を予定しているらしく次はまた別の側面を見せてくれそうでオモシロそう。好きな曲はレゲエトラックで愛を歌う”To Fall In Love”

To See A Sunset by Kota the Friend & Statik Selektah

 今週大量のリリースがあった中、友人とも意見が一致したハイライトはこれ。何も新しいことはないかもしれないのだけど、Kota the Friend & Statik Selektahはマジックをこのアルバムで完全に起こしていると思う。手垢つきまくりの「ブームバップ」だとしてもラップとサウンドのアレンジでこれだけ新鮮に聞かせられるのは本当にすごいと思う。好ききな曲はサックスが印象的な”Elevator”

SURF OR DROWN by Hit-Boy

 先行曲でハレーションを起こしたのちにアルバムリリース。マーケティングだったのか?と勘ぐりますが内容はもちろん最高。ビートはもちろんのこと彼はラップもしていてそれも結構好きだった。NASとのアルバムでもドリルをチラ見せしていたけど本作ではさらにドリルビートは増えている。トラップよりも音の刻みが細かいからビートメイカーがドラムパターンやベースの置く位置で色を出しやすいと思っている。だからHit-Boyのドリルだなという感じがする。とはいえ好きな曲はやはりサンプリングど真ん中でドリーミーなムードが最高の”Tony Fontana III”

Exodus the North Star by Yaya Bey

 前のアルバムのアウトテイク集かと思うくらいジャケがそっくりなYaya Bey新しいEP。いわゆるネオソウルの枠に入ると思うけど、本作は最初の極上ラバーズR&Bな2曲で勝負あり。超メロウで何回も聞いていている。特に朝これ聴きながら準備するのが春の陽気もあいまって最高に気持ちよいと思う。甲乙つけがたいけどタイトル曲の”Exodus the North Star”が一番好き。

Noir Or Never by Che Noir & Big Ghost Ltd

 ラップを語る切り口として「フィメール」があるが、もう不要なのでは?とこういうアーティストの曲を聞くと感じる。NYバッファロー出身のMCでサンプリングベースのDOPEなビートでスピットしまくりでめちゃくちゃかっこいい。
 イントロ経ての実質1曲目”Resilient”の冒頭”Look, I could never slave in a office So I had to take a risk, only pressure made for the bosses” からして最高。最近聞き始めたポッドキャスト番組OVER THE SUNでResilientを「負けへんで」と意訳されてたのとリンクしててアガった。

2023年3月26日日曜日

嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか

嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか/鈴木忠平

 WBC優勝で野球ムード一色の中、その空気に当てられて積んであった本著を読んだ。以前からいろんなところで耳にしていたが、RRCの代官山蔦屋書店のフェアで仙人掌が紹介してたので買ったのだった。父やパートナーが熱狂的に野球を見ており子どもの頃から現在まで一番身近な観戦スポーツは野球なので、本当に信じられないくらいオモシロかった。こういったスポーツドキュメンタリーを本で読んだことなかったので、今後は読んでいきたいと思えた。

 落合監督が指揮をしたころの中日ドラゴンズはめちゃくちゃ強かった。そこには落合監督の独特のスタイルがあり「オレ流」という言葉が流行った時期もあったくらいに。当時は自分にとって縁のないチームであり実態はよく知らなかったのだけど、彼の考え方およびその下で修練した選手たちのエピソードがどれを取ってもめちゃくちゃオモシロかった。時系列でシーズンを追いながら、著者の視点と三人称による選手たちの視点を交互に見せながら落合監督を紐解いていく構成が見事。スポーツに関するノンフィクションながらも様々な点が用意され最後には線で繋がっていくので、まるでミステリー小説みたいに読めるし、落合監督の思想はビジネス的な側面も強いからどんな風にでも読める。魅力はそこかしこに仕込まれており約500ページをめくる手は止まらず一瞬で過ぎ去っていった。

 プロは結果がすべて、つまり野球において勝つことが至上命題であり落合監督はそこに従順であり続けたのがよくわかる。そして勝つ目標を達成するためには感情に流されてはダメで目の前で何が起こっているのかの現状把握をして打ち手を施していく。プロ野球は結果ももちろん大事だがロマンも必要不可欠である。この頃の落合監督はひたすらにリアリストであり、派手なバックグラウンド(たとえばドラフト1位とか)がもたらすロマンを重視するのではなく再現性の取れる技術(リアル)を重視していく。野球というスポーツの最適化を進めていくそのドライさは企業経営者のようで自分が見たことない野球監督の像で心底驚いた。ただそのリアルの積み上げでひたすら勝ち続けたにも関わらず観客動員は減り人気がなくっていく反比例現象が起こった点が興味深い。当然ガチファンにとっては「勝ち=正義」だが、ライト層からすると勝ち負けを問わないロマンが必要。その難しさを霧散させるために、ひたすら選手個人の能力主義を貫いていく落合監督の信仰のようなものさえ感じた。それを象徴するようなラインを引用。あの頃のプロ野球を少しでも見ていれば100%楽しめる本だと思う。

落合は勝ち過ぎたのだ。勝者と敗者、プロフェッショナルとそうでないもの、真実と欺瞞、あらゆるものの輪郭を鮮明にし過ぎたのだ。

落合というフィルターを通してみ見ると、世界は劇的にその色を変えていった。この世にはあらかじめ決められた正義も悪もなかった。列に並んだ先には何もなく、自らの喪失を賭けた戦いは一人一人の眼前にあった。孤独になること、そのために戦い続けること、それが生きることであるかのように思えた。

2023年3月23日木曜日

他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ

 

他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ/ブレイディみかこ

 友人たちがべた褒めしていたので読んだ。日本語で「共感(シンパシー/エンパシー)」と呼ばれる言葉には様々なタイプが存在し、それについて文献などを紹介しつつ解きほぐされていて興味深かった。内容としてはかなり学術的なものの著者のいい意味で平易な文体でかなり分かりやすかった。

 もともと人と同じであることに安心を覚えない天邪鬼気質なので共感に重きを置いていなかった。ただそれはエモーショナルな感情の連帯、シンパシーのことであり、本著で言うところのコグニティブ・エンパシーについては「人の気持ちを想像する」ことで回避できる愚行や逆の善行があるなと日々生きている中でいつも思う。そのアナロジーとして「他者の靴を履く」というのはなるほどなと思えたし、それを軸に置きながらいろんなケースを考察して同じアナロジーで説明してくれる点がオモシロくて分かりやすかった。たとえば被害者への過剰な感情移入について、「自分の靴で他者の領域をずかずか歩いているのだ」といったように。

 コグニティブ・エンパシーが後天的なもので訓練可能であるという話は自分自身が本や映画といったフィクションを通じてかなり訓練されてきたのだなという気づきがあった。一方で教育の中でどの程度その点に重きを置いてエンパシーを訓練しているかは微妙で著者の以下のラインに納得した。人の気持ちを想像すること自体が大変な作業にもかかわらず、そこにマイナスの動機が用意されていてれば、そら誰もやりたくないよなと思う。

子どもにとって(あるいは大人になっても)「 ○ ○ちゃんの立場に立って考えてみなさい」というパースペクティヴ・テイキングが、非常にウザくて説教くさいものとして心に刻まれる。

 アナーキズムの話もたくさん出てきていて、かなり勉強になった。やはりデヴィッド・グレーバーの視点の鋭さは著者を通じて改めて認識させられたし、現在「亡霊」が跋扈する社会に生きる身としては既存の概念に簡単に回収されずに自分がどう思うか、どう生きたいかをもっと大切にしたい。この辺がブチ刺さった。

わたしやあなたは、他の女性たちでも、他の男性たちでもない自分自身なのであり、その違いをたやすく放棄しないことは、「過度の共同性」に陥らず、正しい「共同性」を身に着ける素地になる。

他者から勝手に押し入れられるカテゴリー分けの箱に入って、箱としての呼称のラベルを貼られ、「この箱の中に入っている人たちはこんな味がします」という中身の説明や、「その味がするのはこんな素材が使われているからです」という原料リストをびっしり書き込まれることを拒否しなければ、自分が自分であることを守るのは難しい。

 個人と社会、利己と利他といったように相反する概念として世間で提示されていたとしても、それを鵜呑みにする必要はない。本著では相反するよりむしろ相互作用があるという話もかなり興味深かった。こういったある種の当たり前をいろんな本からの引用を駆使して解きほぐしてくれる点が一番オモシロかった。本著のきっかけとなった著者の大ベストセラーをまだ読んでいないので読みたい。

2023年3月21日火曜日

2023年3月 第3週

Remember Archive by Code Kunst

 韓国ヒップホップの最重要プロデューサーの1人といっても過言ではないCode Kunstのアルバムがリリース。豪華なゲストを迎えて彼らしいサウンドがいつものように鳴っていて良いアルバムだった。彼のビートはギターの使い方が特に好きでエモーショナルをかき立てられる。SMTM10からの地続きでGecko、MINO、Tabberから始まり、AOMGコネクションでWooとの抜群のコンビネーションを見せてくれたり。”in the attic”でmoodがスイッチして歌ものメインとなっていく。”Crew”ではCode Kunstもドリルを取り入れており、ネタがMura Masaの"bbycakes"と同じだった。ラストのmeenoiの使い方が彼女の声の特徴を生かしたインディーロック調の仕上がりになっていてこれまでのmeenoiの曲で一番好き。この点でプロデューサーらしいなと思えた。好きな曲はやはりアルバム内で一番ハードな”Shine”

The Hurtbook by Alex Vaughn

 OKayplayerの新譜紹介記事が最近一番信用できるソースな気がしている。そこで紹介されていたAlex Vaughnがちょうどいい温度感で好きだった。EPの延長線上のアルバムのようでレーベルメイトのSummer Walkerが参加したREMIXとAri Lennoxが参加したREMIXを頭におくストリーミング対策ばっちりな曲順は節操がなくみえる。ただそんなこと言っているのは老害のみで、バラード曲中心のなかでどの曲もかっこいい。なかでもMuni Longとの”IYKYK”は今年聞いた中で一番キュートかつスイートでマジ最高。

098radio Vol.1 Hosted by Awich

 ラッパーとして全方位的に正解を叩き出し続けているAwichによる沖縄コンピ。(Nワードの件とか日経の件とかそれはそれ)沖縄は間違いなく日本のヒップホップのホットスポットであり、それがパッケージされていてさすが姉さんという気持ちだった。沖縄のラッパーはそのイントネーションを他のエリアに比べてラップに取り込めているラッパーが多い印象がある。もともとの言葉の音楽性が高いというのもあると思うが、ヒップホップにとってローカル、フッドをレペゼンすることは重要な要素であり、リゾート地という簡単な言葉で片付かない島の歴史がヒップホップを育てているというのは考えすぎか。それはともかく”Rasen in Okinawa”が圧巻。各ラッパーのキャラクター、かっこよさがビンビン。特にOZworldの沖縄民謡を混ぜたスタイルは久しぶりに脳天ぶち抜かれる感覚だった…

Trapstar Lifestyle by lobonabeat!

 タイトル通り韓国のTrapstarのアルバム。去年のシングルをコンパイルした感じは否めないものの、どの曲も中毒性が高くてアルバムとして繰り返し聞くのは楽しい。BILL STAXと蜜月関係にあるようで彼との”Birthday”もバッチリの相性なので2人でアルバムとか作って欲しい。好きな曲はoygliをfeatに召喚し、ピアノループが癖になる”Young Boy”

Speak N Spell by Murs

LAのベテランラッパーMursによるアルバム。Wiardonという若いビートメイカーが全ての曲のビートを担当しているのだけど温故知新な90sバイブス満点で非常に好みなアルバムだった。スラングがほとんどないのでラップが非ネイティブでも聞きやすいのがいい。1曲目にはLarry Juneが参加していてそれが一番好きだった。

Bless Season 2 by KUYA MIGUEL & TJ.ROB

 Twitterで見かけて聞いたらミックステープのノリを感じて久しぶりに心撃ち抜かれた…Kuya Miguelは四国の香川(彼曰くKGW)で活動しているラッパー。とにかく声がめちゃくちゃかっこいいしリリックもオモシロい。生活の中でヒップホップしているんやろな〜というのがどの曲からも伝わってくるのがたまらなかった。TJ.ROBのビートもウェッサイというよりウエストコーストのノリで首を自然に振りたくなるし、街を流しながら聞くのがとにかく最高。好きな曲はひたすら高みを目指す”Elevated”

Victims & Villains by Musiq Soulchild & Hit-Boy

 Musiq SoulchildとHit-boyという意外な組み合わせのアルバム。Hit-boyはいろんなビートメイカーをKendrick Lamarのように煽っている”Slipping Into Darkness”が話題だけども、毎度ブレずに彼なりのスタイルを提示しておりかっこいい。今回も骨太なビートとMusiq Soulchildの相性は良かった。好きな曲はデカい鳴りのドラムが心地よい”is it love, is it lies”

Analyze Love by Azekel

 毎週素晴らしいシンガーの作品がリリースされており優勝案件多すぎる今月。ナイジェリアルーツのUKシンガーAzekelのアルバムもその一つ。アルバムとしてトータルの完成度がめちゃくちゃ高くて今週一番聞いていた。アフロビーツはもちろん収録されておりNaoとの”Chocolati”はデュエットがスムーズな聞き心地だし中盤と終盤のサックスがいいアクセントになっていてかっこいい。ただアフロビーツばかりではなくあくまでR&Bのアルバムとして構成されている点が一番好感を持ったところ。ゆえにどの曲も魅力的なのだが強烈なホーンとコーラスが印象的な”Love & Death Pt.2”が一番好きな曲。

2023年3月13日月曜日

2023年3月 第2週

Life is So Good 2 by Gerardparman

 現在のシーンにおけるキービートメイカーであるGeraldparmanの新しいアルバム。期待して聞いてみたら、その期待をはるかに超える仕上がりでとても良かった。1、2曲目が今回のアルバムを象徴している。1曲目はAru-2との共作のインスト。ビートパターンはドリルなんだけど、質感はAru-2であんまり聞いたことないタイプのビート。同じような形でLeeとの共作ビートもあり、これらは彼なりのビートメイカーとしての矜持を感じる曲で単純なタイプビートメイカーではないことが分かると思う。そして2曲目の”Power”はバトルMCとして認知されがちな4人を集めたマイクリレー。いつもの仲間たちとかっこいい曲を追求するのもいいけど、こういう風にビートとラッパーの組み合わせで意外性を見せるのはプロデューサーとしての矜持を感じた。なかでも烈固のイメージがめちゃくちゃ変わった…こんなにラップうまいと一度も思ったことなかったので完全にマジックが起こっている曲。いつメンのColte、Disry、ベゲfastman人などとの曲はもちろん最高なんだが一番好きな曲は”Bando” Easta,Yvngboi Pの魅力がふんだんに詰まってた。

ZION VII by 9th Wonder

 9th wonderのビート集。毎回えぐいボリュームの曲数なことにびっくりする。昔はオールインストだったけど、ここ三作は前半EPみたいな感じで特定のアーティストをフィーチャーしていて、そこが聞きどころ。今回はAmber Narvanというシンガーがフィーチャーされていて素晴らしかった。歌い上げではないBreezin'系で完全に好きなタイプ。USではこのレベルのアーティストがゴロゴロいるあたりが格の違いを感じる。好きな曲はサンプル使いに懐かしさを感じる”Be Mine”

Gumbo by Young Nudy

 ジャケが気になって聞いたら良かった。21 savageの従兄弟らしく彼がイミグレ問題で揉めたときにも一緒にいた模様。ATLのラッパーだけどもニューオーリンズのソウルフードであるGumboを題したアルバムとなっている。(曲名も食材ばかり)ATL系のヘビーなトーンの量産型トラップミュージックではなく音楽として聞けるアルバムなので好きだった。好きな曲はシンセの上音が気持ちいい最後の”Passion Fruit”

Lotus Glow by Adi Oasis

 友人のインスタのポストで知った。完全に2023優勝案件。自分の中で定義される好きなタイプの音楽が網羅的に収録されており、何年かに1回あるかないかの傑作だと思う。ブルックリンベースのフレンチカリビアンのアーティストなんだけど、70年代の黄金期のソウル、ファンクを彷彿とさせるメロウネスは満タン。バンドの生な音と彼女の声の相性が堪らなく素晴らしくてブラインドで聞かされると今年リリースとは思えないかもしれない。だからといって古びた音かといえば全くそんなことはなく2023年のソウルミュージックになっている。彼女はもともとベースプレイヤーで基本ベース弾きながら歌っているのもめっちゃかっこいい。好きな曲は全部と言いたいレベルなのだけど、ブリブリのベースが気持ちいいLeven Kaliとの”Naked”

FORWARD by Jordan Ward

 2023優勝案件が今週のうちに立て続けに起こっている異常事態。LAベースで元ダンサーのJordan Wardによるアルバム。なんと最近音沙汰なかったLidoが総合プロデューサーを務めているので、もうビート全部が大好き…1曲もハズしがない。本当に今週は朝から晩まで聞きまくっていた。どんなシーンにもフィットするバラエティ豊かなサウンドと彼の素晴らしい歌声。Lidoのサウンドは昔はもっとドラムを筆頭に詰め詰めで突っ込んでいた印象があるけど、かなり大人仕様というか洗練されている。今年のR&Bのアルバムでこれを超える1枚は出ない気がする、そんくらいの傑作!好きな曲はこれまた全部と言いたいレベルだが、”FANJAM4000”の圧倒的なポップさがやっぱり最高だと思う。

All Season Gear by Ivan Ave

 Ivan Aveの最新作。毎回ゆるいムードのトラックとタイトなラップで好きなラッパーの1人。ノルウェーのオスロベースながらワールドワイドなコネクションがある。日本だと去年のMitsu the beatsのアルバムにも参加していたのが記憶に新しい。今回も超メロウでタイトルどおりAll season対応だけど、夏に部屋で聞いたら3℃くらい温度下がるのでは?という音とラップ。ビートも自分で作る人であることを今回知って驚いた。セルフプロデュースはもちろんのこと、盟友Mndsgnも参加しているし、あとFeatに大好きなChildren of Zeusが参加しているのもアツい。

College Park by Logic

 引退した余生みたいなノリでアルバムを作り続けるLogic。前作でDefJamとの契約が終了し今作はインデペンデントでのリリースとなる。2011年ごろの何者でもないころがアルバムのテーマであり、仲間とのライブに向かう道中の寸劇含めてアルバムで聞くことに意味がある構成でオモシロかった。リリックにそれほどスラングがないので意味が取りやすいし、めちゃくちゃラップうま〜というのはいつものこと。FeatにRZA,Redman,Norah Jones, Bun B, Lil Kekeなどのバラエティ豊かなOGを好きなように呼んで曲を作っているのがかっこいい。商業性よりも音楽に奉仕している姿勢を感じるから。JoeyとのODBオマージュな”Shimmy”が好きな曲。

2023年3月11日土曜日

それで君の声はどこにあるんだ?黒人神学から学んだこと

それで君の声はどこにあるんだ?黒人神学から学んだこと/榎本空

 翻訳家の押野素子さんのツイートや最近聞いている代官山蔦屋書店のポッドキャストで知って読んだ。いわゆるブラックミュージックが好きで、そこには大なり小なりキリスト教の存在がある。それらが全部本著にあるような内容を背景に持つとは言い切れないかもしれないが、音楽における強力なエンパワメント性に対する影響が大いにあるのでは?と思うほど刺激を受けた。そして何よりも著者の読ませる文章の素晴らしさもあいまって自分にとって大切な1冊となった。

 著者がNYにあるユニオン神学校へ留学し、ジャイムズ・H・コーンという神学者から教えを乞うというのが大筋で、エッセイ兼黒人進学の入門書のような構成になっている。黒人神学に対して外様である著者が悪戦苦闘しながら何とか少しでも本質に近づこうとする様が生活の状況含めて描かれておりとても読みやすい。宗教となると身構えてしまうこちらの姿勢を解きほぐしてくれる構成だと思う。キングとマルコムの比較がたくさん出てきたり、キリスト教における土曜日の議論が出てきたり本格的なキリスト教の話ももちろん書かれているのだが学問としてのキリスト教なので少し距離がある。それによって門外漢でもキリスト教の考えについて理解しやすくなっていると思う。そして著者がユニオン神学校で勉強する中で学んだことを通じて吐き出される論考の数々が本当にエンパワメントに溢れていて個人的にはそこに一番やられた。文字通り着の身着のままでNYにきて藁にもすがるような気持ちで勉強に打ち込んでいく、その真摯な姿勢にも胸を打たれた。以下刺さったラインを引用。

私たちは様々な境界線を同時に持ち得るし、何よりも刻一刻と変えていくそれらがどのように作用するかは、多分に、私たちと他者との関係性に依存している。そんな関わりあいを通して、私たちは自分が誰であり、誰でないのかを、問われつつ学び、学び捨て、そして学び直していく

スタイル、声とは、自分を追い、自分を待つ歴史との絶え間ない対話から生まれる。それは自分の声でありながら、自分の所有物ではあり得ず、常に関係性の中に存在する。そこにあって真摯に問われなければならないのは、自分は何の後を生きているのか、ということだろう。自分の存在は過去のいかなる連環によって規定されているのか。

 外様ゆえの苦労も描かれており、コーンから「黒人以外の人間が、黒人の苦労を理解するのは難しい」という自分だったら心折れそうな強烈なことを言われながらも、それを受け止めて自身のルーツへと回帰していく流れも好きだった。足元が大事というのは言われれば分かるけど、やっぱり一度外に意識を向けた後に足元の重要さを認識する方がより気づきが多いと思うから。

 「宗教を信仰する」となると、何かを「信じる」わけだけど、日本ではこの「信じる」ことに対する心理的安全性が極端に低く感じる。なんでもかんでも相対化(悪くいえば冷笑)して距離をおくことは役立つ場面も当然あるが、最近はそれがSNS含め加速しすぎていると思う。それらを押し退けて理想や希望はもっと大きな声で語られるべきだと読んで感じた。そしてそれが「私の声」でありたい。

2023年3月7日火曜日

2023年3月 第1週

Gold by QM & CRUCiAL STAR

 SMTM11で同じチームだった2人によるジョイントEP。こういう派生が起こっていくところはリアリティショウのいいところだし、このEPは2人のラップのトーンの違いが際立ってとてもかっこいい。ビートは HOLYDAYやFredi Cassoなので間違いなし。メロウなバイブで好きなタイプだった。最後にはチームリーダーのQが登場し大団円。好きな曲はもったりしたグルーブが癖になる”JET SKI”

CAFE TAPE 02 by V.A.

 韓国に実在するカフェのコンピ。一カフェのコンピとは到底思えない完成度で、めちゃくちゃかっこよかった。どういう経緯なのかよく分からないのだが参加メンバーが豪華。CHOILB, Khundi Panda, Hoody, ODEE, JINBO, PUFF DAEHEE, 30, Kitsyojiなど。30のアルバムで大活躍していたVIANNがExecutive producerらしいので、これまたかっこいいビートしかなくて好きだった。とくに好きな曲は1曲目の”Tape Talk“ 久しぶりにフューチャーファンク系でブチアガった。

Nobori by JUMADIBA

 アップカミングなラッパーは最近たくさんいるけど、その中でも一番好きなのはJUMADIBA。ミックステープとして最新作がリリースされた。いろんな音楽を聞いていて、それを自身で消化して新しい表現を見せてくれるラッパーが好きで彼からはそれを強く感じる。リリックのユニークさとビートの上音のユニークさ、そして何よりも天性の声。これらが合わさってJUMADIBAになるっていう感じ。ビートも作れてラップもできるのだから、これから楽しみしかない。好きな曲は”Rainy”

ALONE LIVE by OMSB

 昨年の傑作『ALONE』のリリースライブが配信リリース。行けなかったのでこうやって音源で聞くことができて嬉しい。めちゃくちゃかっこよかった。ヒップホップのハードな側面と彼の持つナイーブさが最高の形で結晶化したのが『ALONE』だと思っているが、それがライブでも滲みでまくっておりMC含めて何度も首を振っていた。こういうライブアルバムがもっとリリースされてほしい。

MOSAIC by Young Coco &Kenayeboi

 2人ともラッパーとして知っていたけど、神戸をレペゼンするラッパーだとは知らなかった。声の相性がめちゃくちゃ良くてハイトーンでフリーキーなYoung Coco、ドスが効いていてロートーンなKenayaboi。安易に東京行ってどうのこうのとかより、こうやって関西でシーンを作っていくのが今の時代なんだなと思う。好きな曲はYoung Cocoのフックのメロディが気持ちいい”Sannomiya” 朝から深夜にget it on~

Red Moon In Venus by Kali Uchis

 ボーイフレンドのDon Triverのアルバムに続き新作をリリースしたKali Uchis。R&Bの中では間違いなく今年のAOTY。全方位型で隙がなくどんなシチュエーションでも聞けるし無限リピートしてしまう。コッテリ系のR&Bも好きなんだけど、個人的にはBreezin’なムードに惹かれる。あと本作では往年のソウルを彷彿とさせるメロウネスが備わっているのも好きなポイントだった。いろんな年代のサウンドをクロスオーバーしつつもそこで歌う彼女の一貫したトーンとの相性が素晴らしい。好きな曲は”Endressly”

Masego by Masego

 こないだ聞いたBraxton Cookのアルバムにも参加してたMasegoの最新作。これまた無限リピートしてしまうメロウなサウンドのつるべ打ちで悶絶死。いろんな楽器をプレイできる彼だけど、シグネチャーのサウンドのサックスが聞こえてくるとやはりアガる。ジャケットはギターだけど…以前の作品よりも生音要素が少なくなっている印象でよりR&B要素が増していて良かったと思う。好きな曲はピアノの音色と四つ打ちへの展開が気持ちいい”Who cares anyway”

UGLY by slowthai

 UKの悪童slowthaiのニューアルバム。以前から見せていたロック、パンクなムードの上でラップをぶちかましていてエナジー満タン。方向的にはダンスミュージックとの親和性の高さが好きだったので、そっちに全振りしているアルバムはいつか聞いてみたい。好きな曲はピアノループと疾走感のあるブレイクビーツの上で元カノとの関係、元カノに起こったことについてストーリーテリングする”Never Again” 話の流れが変わるところでギターに変わるのもナイス。今までリリックに注目したことなかったけど、こんなんもできるんすねー

2023年3月5日日曜日

動的平衡2 生命は自由になれるのか

 

動的平衡2/福岡伸一

 本屋で動的平衡3の新書verが出ているのを見かけたので、まずは読んでいない2を読んでみた。これは2と呼んでいいのか正直微妙なところで、1作目の圧倒的な完成度と比較すると寄せ集め感が強かった。一部は媒体の原稿を集めて編集したものなので仕方ないのだけど、逆に1作目の凄さを際立たせる結果になっていた。

 ただ一つ一つの原稿は当然ハズレなし。著者の作品を読むのは4冊目だが、サイエンティストかつエッセイストとして右に出るものはいない。身近な生命の現象をこれだけ豊かに描くことができるのは圧倒的な読書量と頭脳の明晰さによることを本作でも例に漏れず思い知らされた。個人的にはエントロピーをめぐる議論が興味深かった。物事は自然と発散の方向へ向かうようになっているが、生命はそれを見越して自らを破壊・再構築を繰り返し動的平衡を維持、エントロピーの影響を逃がしている。ここからもう一歩踏み込んで「水を飲むことでエントロピーを捨てている」という話になるあたりが他のサイエンティストと違うところだと思う。あとは遺伝子上に発生するミスとしてのガンを考察しながら、どうしてミスが起こるような設計になっているかの話も興味深かった。ミスが発生する、つまりそこに進化の可能性を残しているということらしい。そこに遊びがないと皆共倒れになるというのは人生の教訓のよう。自分とは縁遠い生物の世界をアナロジーとして捉える面白さもあるのでジャンルにとらわれず色んな本を読みたい。

2023年3月2日木曜日

2023年2月 第4週

Prize by Rozi Plain

 SSW系は掘り出したらキリないので、ノータッチなことが多いけどUKブリストルと知って聞いてみたら、めちゃくちゃかっこよかった。どの曲もギターポップにシンセの音が載っている感じなんだけど、このシンセのコードやメロディがとにかくたまらない。これかけながら春になる街を散歩すれば嫌なこともすべて忘れられそう、そんな音。Featで参加しているAlabaster dePlume は同じくUKのサックスプレイヤー。ダビーなエフェクトをかけたサックスと彼女の曲の相性はばっちり。フォークにカテゴライズされているけど、こんな前進的な音楽もあるのかと勉強になった。昔のアルバムも聴いていきたい。

Art Make Love by 30/70

 今週一番聞いていた1枚。オーストラリア、メルボルンベースのジャズファンク/ネオソウルバンド。ジャズで現行ダンスミュージックを構成していて、そしてそこに粘りのあるディーバなボーカルが載っている。こういうのは大好物だし色んなタイプのビートが入っているので聞いてて飽きない。なかでもリリースタイミング的にもビート的にも明らかにDillaオマージュな”Jay Luv”が好きな曲。めっちゃベタだけど。

Good Vibes by OH NO

 Madlibの弟、OH NOによるビートテープ。Roy Ayersの初期作品のサンプリングらしい。ビブラフォンだけでなく他の楽器も重奏的に鳴っておりかっこいい。サンプリングマジックを信じている古い人間なのでこういうのはアガる。ピアノループが最高に気持ちいい”Band Jukes”も捨て難いが、好きな曲はブラジリアンっぽいテイストもある“Jungle Developments”

Pressure Makes Diamonds by CAMO

 Simon Dominicを迎えた”Wifey”が個人的には印象に残っている韓国のフィメールラッパーCAMOの1stアルバムがリリース。本作はFeatやプロデューサーなど含めてしっかり準備してリリースされているなという素晴らしい完成度のアルバムで繰り返し聞いている。ポップにいきすぎないギリギリのバランスを狙っていると思うし、先行シングル ”MAPSI”が808 Mafiaがプロデュースってだけでどのくらい本気か分かる。実際その曲が最高の笛トラップで一番好きだった。Featも各人すばらしくAwichが参加してるのもアツいし意外なところではLoopyも参加していてバラエティに富んでいて良かった。

Magnolia by Okonski

 TLで見かけたジャケに惹かれて聞いてみたら素晴らしかった。朝、子どもにご飯を食べさせるときや夜本を読むときによく聞いた。Okonskiさんがピアノプレイヤーで彼が主体でベース、ドラムを加えたユニットらしい。全員Durand Jones and the Indicationsに所属している。スタジオで夜な夜なインプロで作ったとは思えない曲の数々は落ち着きたいときにぴったりだし長く聞けるアルバムだと思う。最初のレコーディングで作られて本アルバムの原動力になった”Sunday”が一番好きな曲。是非とも日曜日の夜に聞いてほしい。野村訓市氏の”Traveling Without Moving”でいつかかかると思う。

Real Cultural by Channel Tres

 アルバム出るのかと思いきやEPがリリースされたChennel Tres。LAベースでヒップホップインスパイア系のダンスミュージックという点ではKaytranadaと重なる部分もある彼だが、本作でも1曲目以外はすべて四つ打ち。ゴリゴリのディスコチューンの”Just Can’t Get Enough”がとても新鮮だった。ただ好きな曲はガッツリハウスの”All My Friends”

Love Sick by Don Triver

 Travis ScottのCACTUS JACK所属のDon Triverがアルバムをリリース。前作からそのラップというよりも音楽的な豊かさに惹かれていたが、本作はまさにその方向を強化した作品でとても好きだった。LOVEがテーマということもありメロウネスがアルバム全体に漂っていて通しで聞きやすい。The Neptunesのシグネチャーサウンドをサンプリングした”4 ME”はぶち上がるし、James Blake,Charlie Wilson, Toro y Moiといったメンバーの参加も音楽的強度が高いと思う。似たようなトラップ並べただけみたいなアルバムはもう聞けないので、こういうミュージシャンシップに溢れていて、なおかつヒップホップベースというのが一番好きかもと思わされた。一番好きな曲はBoi1daがProduceしたボーカルサンプルベースの”Do It Right”

One of A Kind by Russ Millions

 UKドリルまでディグできてないがたまにジャケで引っかかったのは聞く。国内有数のドリルディガーであるMr.Pug氏のインスタのストーリーで知った。こういうの家で聞いてもあんまピンとこないのだけど、移動中に聞くとぶち上がるというのが個人的にはある。ドリルは日本や韓国でも人気が出ているので、それらを聞くのが精一杯。こういったUKのオリジネーターまで聞けてない。だけどこうやって改めて聞くとリファレンスは完全にUKもしくはNYなんだと感じた。トラップよりもビートの刻みが多く打楽器としてのラップと相性がいいのでたくさん聞いても飽きないのがドリルのいいところ。好きな曲はスネアの音が気持ちよく低音ブリブリの”Salute” この曲に参加してるYV、BUNIが周辺人物で3人による”Reggae & Calypso”も特大ヒット曲っぽいし、アルバムのオープニングをかざる”6am in Dubai”も同じくでめっちゃかっこいいので新曲はチェックしていきたい。

Who Are You When No One Is Watching? by Braxton Cook

 Okayplayerの新譜紹介で知ったアルトサックスプレイヤーでありシンガーのBraxton Cook。1曲目が全く好みのテイストではなく最初聞いたときすぐ聞くのを止めたけど、やっぱり最後まで聞いてみようと思って聞いたらアルバム全体としてとても好みだった。木を見て森を見ずというか、すぐに分かった気になるのは本当に良くない。本職のサックスはもちろん素晴らしいのだけどボーカルもセクシーでかっこよい。似たようなスタイルのMasegoと共鳴した”90s”のビートの歪さと終盤の重厚な展開が最高なんだけど、結局一番好きなのはネオソウルバイブス満タンの”Statistics”

20 by Yvng Patra

 Yvng Patraのニューアルバム。RedbullのRasenや03 perfomanceで見ていてたけどアルバムを聞くのは初めて。むちゃくちゃかっこいい…これでまだ20歳だなんて末恐ろしい。先週のラップスタア誕生でも言及されていたけど、スキルは当たり前になっているのがよく分かるし彼自身も曲の中で「スキルは最低限だろマナー」と1曲目の”Flawless”で宣言している。リリックもパンチラインやリアルトークを聞かせてくれて聞き応え十分。しかも20曲57分を楽しませてくれるアルバムとしての仕掛けがたくさんあって聞き終わった後の満足感はかなり高かった。シングルでバズ狙うのもいいけど、こういう骨太の作品がたくさん増えてほしいと思うおじさんです。好きな曲はYammie Zimmerの硬質なビートに大神が参加している”Silent Cook”

THE SIGHT by 黒衣

 久しぶりに黒衣が東京でライブをするということで見に行った。このEPがかなり好きだったので収録曲をたくさん聞けて嬉しかった。びっくりしたのは梅田サイファーのKenny Doesプロデュースの新曲2曲。四つ打ち、トラップと今までの黒衣と違う基軸をこのタイミングで打ち出すのもオモシロいし単純にトレンドをなぞるのではなく黒衣の曲になっていた点に驚いた。次の作品も楽しみ。

2023年3月1日水曜日

継続するコツ

 

継続するコツ/坂口恭平

 本屋で見かけて気になったので読んだ。キャリア初期の作品は結構読んでいたものの最近の作品は読めていなかった。久しぶりに読んでもあいかわらずエネルギッシュで元気が出る内容でアガった。著者が毎回提示するユニークな観点は本著でも健在でそれがすべてだと思う。

 タイトルからして、どうやって継続していくかのノウハウ本だと思われるかもしれない。実際、実体験に基づいてどのようなマインドセットや環境を用意した方がいいかを説明してくれる。著者の場合は本を書く、絵を描く、音楽を作ることの3つの継続を意識していて、特に本と絵についてスコープを当てている。「継続するには好きであることが最重要だ」という話なので、ノウハウというより思想に近い部分の話が大半だった。好きなことを続けるのにエネルギーは不要だが、嫌なことを続けることにはエネルギーが必要であり、むしろネガティヴな影響を与えるからやめたほうがいいというのはド正論だった。「そんな綺麗事聞かされても生きていくためには好きなことだけでは生きていけないんだから」という否定に対して、こんな否定されて生きにくい社会に迎合していいのか?と発破もかけられて卑屈になりがちな自分を反省した。

 ポッドキャストやったりこうやってブログ書いたりすることはほとんどお金に結びついていないからコストパフォーマンス時代の今では無意味に思う人も多いかもしれない。しかし著者はそういった軸で何かに取り組むこと自体に疑義を呈しており他人と比較したり目先のお金のことを考えるのではなく、とにかく自分が好きで継続できるかどうかを考えよと繰り返し説いていた。そしてそれこそが幸福なのであるという、幸福論にまでリーチしている点が本著がユニークなところ。しかもそこにはほとんどロジックはなく、著者のノリ、バイブスに巻き込まれる形で延々と話を聞いていると、いつのまにか幸福論になっている点がオモシロかった。盲目に彼の意見を全部信じようとは思えないけど、やっぱり実際に実現していてなおかつ声高に自分を肯定していく存在は社会にとって必要。自分は性格的にすぐに否定から入ってしまうので、ポジティブなバイブスで好きなことを継続していきたいと思えた1冊だった。最後にパンチラインを引用しておく。

笛を使って、人をコントロールするのとか嫌じゃないですか。それよりもサックスを吹きまくって、意味もないのに聴いている人が自然と体を揺らすほうが気持ち良いじゃないですか。あんな感じです。