2024年4月30日火曜日

ニュー・サバービア

ニュー・サバービア/波木銅

 著者に前作である万事快調<オールグリーンズ>がかなり好きだったので読んだ。好みでいうと前作だったが、B級映画的なスラップスティックなアプローチはハマる、ハマらないが色々なので好きな人は好きな作品のはず。

 過去に小説家志望だった配達員の仕事をする馬車道という女性が主人公で、その幼馴染二人が脇を固める。女性が主人公なのだが言葉遣いはかなり乱暴で読んでいるあいだ女性ではなく男性だと勘違いしてしまうことが多々あった。小説は文字しか情報がないので、そこから性別を含め登場人物の情報を推し量るわけだが自分の言葉遣いに対する先入観に気付かされた。著者はこの点に意識的であり、作中では言葉遣いではなく骨格を使って同様に性別に対する先入観への違和感を今話題のトイレを使ってインサートしている。性別は誰かに決められるものではない、それは小説を読む際も同様だ!という力強い宣言に取れた。

 荒唐無稽な展開の連続で石が転がるようにプロットが展開していくので読んでいるあいだ飽きることはない。謎の生命体(ニュー・サバービア)が登場してからは完全にB級SFの様相を呈しておりページを捲る手は止まらなかった。小説家志望という設定もあいまってメタ的な展開もあったり、前作に続き固有名詞の積極的な引用も盛り沢山でカルチャーに対する愛はそういったギミックから感じた。そんな中でもハッとするラインがあり、そのギャップが魅力だった。例えばこの辺。

食い物を運んで行ったり来たりの繰り返しだ。地元よりもさらになにもない田舎に住んでいた祖母が、家畜にエサを与えて回っていたときの姿を思い出す。

「安くて質のいいもの」はおしなべて人権を侵害することによって生み出されている。そんなものを手にしたくない。でも、それを手にしなかったら飢える。死ぬ。

べつに恵まれていないのにその場から動こうとしないのも、なんだか郊外生活者的だ。

 原発事故による放射能汚染されたエリアを舞台にするのも新鮮に映った。「アンダーコントロール」と言い放ちながら問題は山積みにも関わらず皆が存在を忘れてしまっているから。国の中に放射能で汚染された立ち入りできないエリアが存在することの異様さをスラップスティックな表現で伝えようとする志の高さは若い作家だからこそかもしれない。それは簡単に長いものに巻かれてたまるかということだ。見た目は軽薄だけど実は骨太というのは一番かっこいい。次回作も楽しみ。

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