2024年4月8日月曜日

波打ちぎわの物を探しに

波打ちぎわの物を探しに/ 三科輝起

 鋭すぎるかつ超絶新鮮な視点で雑貨をとらえた『すべての雑貨』『雑貨の終わり』を書いた著者による新作ということで読んだ。あいかわらず鋭い視点のオンパレードで読む手が止まらなかった。過去二作に比べると皮肉成分が減少している印象で比較的優しい物言いが多かった。日々なんとなくやり過ごしている、見過ごしていることの言語化が本当に見事すぎて読む前後で世界の見え方が変わる最高な読書体験だった。

 雑誌の連載と書き下ろしで構成されており雑貨を起点として色々な事象について考察したエッセイが収載されている。冒頭から模倣とプレイというテーマで始まり、最近モヤモヤしていたことがスパッと表現されており膝を打った。模倣自体に嫌悪は感じないが、その模倣の先で「プレイ」や「〇〇ごっこ」となってしまった途端にチープに見えてしまう。こういった塩梅の難しいラインの話がたくさん載っているからたまらない。キーワードとしては断片化がある。テクノロジーの進歩により、あらゆるものが断片化された状況において文脈は存在せず、そして必要もされなくなってくる。断片化されたものは「雑貨」「クリエイター」などといった一つの言葉に集約されていく。その状況を憂うというよりも冷静に見つめている。全体に抑制されたトーンである点が特徴的だった。

 メルカリがもたらした所有の感覚の変化もめちゃくちゃよく分かる内容だった。自分の周りのものを売れるかどうかでジャッジしたり買うときにメルカリのことを想起する。つまり「メルカリで買えば安く買えるか?」もしくは「ここで買ってメルカリでリセールできるか?」といったことが無意識に頭をよぎっている。持っているようで持っていないという所有のアンビバレンスを指摘されたことで意識するようになった。あとメディア論もあり、ピンチョンの豊かな想像力と陰謀論者の荒唐無稽な主張をダブらせる語り口はとても興味深かった。

 過去作品に比べて著者本人に関する語りが増えており全体に柔らかい印象を抱かせている。Instagramと格闘している話はチャーミングだし終盤のお客さんとの占いにまつわる話は小説的な展開含めてThat’s lifeな内容で胸に沁みた。優れたブックガイドとしても機能しており各章で紹介される本がどれも読みたくなるものばかり。そして本を読むことに関する話もあり、これまた切り口が新鮮かつエッセイを超えた論考レベルになっており興味深かった。特に以前から気になっているアリ・スミスの紹介はかなり惹かれたので早々に読みたい。

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