飛ぶ男/安部公房 |
安部公房の銀色の文庫は古本屋、ブックオフで見かけたら買うようにしているのだが本屋で新作を見かけたので買った。ジャケが毎回マジでかっこいい。死後にフロッピーディスクから発掘された原稿らしい。アウトテイクのリリースは賛否あると思うが、本著は補完せずに未完成のままリリースされており潔さがあった。
空を飛ぶ男とそれを目撃するアパートの住人男女2人という設定。会話がかなり多く演劇を見ているような気分になる。人智を超えている設定としては「空を飛ぶ」ということだけで、こんなに不穏な物語を構築できる点に安部公房らしさを感じた。その大きな要因としては、空を飛ぶ能力を持つ男よりも目撃者である2人の方が只者ではないからだ。大量のガラクタをコレクションする男、銃で空飛ぶ男を狙撃する女。一度関わったらタダではすまない底なし沼のようなキャラクターたちの魅力が溢れている。それらを起点にして物語がこれからスイングしようとしているところで終わってしまっている点がもったいない。実際、終盤は文章が一部抜けており完全に未完成の状態となっていた。エンタメ性を担保しつつ深い示唆を読者に与える点が彼の魅力だと考えているので片手落ちな感じは否めなかった。初期短編集もこないだ出たらしいので、そちらを読んでみたい。
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