2021年11月14日日曜日

万事快調〈オール・グリーンズ〉

 

万事快調〈オール・グリーンズ〉/波木 銅

 Riverside Reading Clubのポッドキャストで紹介されていてオモシロそうだったので読んだ。映画、音楽、文学といった自分の大好きなカルチャーの固有名詞がこれでもかとぶち込まれてる上にエンタメとしてオモシロかったのでめちゃくちゃ最高だった。日本の作家でこんな小説書ける人がいて、しかも21歳だっていうんだから「未来は暗くない」

 地方鬱屈系小説としては「ここは退屈迎えに来て」が近年では代表的だと思うけど本作は登場人物が積極的に打破していく。その方法が工業高校の女子生徒が園芸同好会で大麻を育てるっていう…このプロット聞いただけでヒップホップが好きな身としてはときめきしかないわけだけど、さらに冒頭で登場人物が読んでいるのは「侍女の物語」これだけでもう並の小説ではない気配がある。

 そんな冒頭のかましをはじめとして、つるべ打ちのごとく場面場面でさまざまなカルチャーが言及される。それと物語が剥離していないところが良い。つまり置物としての引用ではなくて、そこにちゃんと愛がある。設定のど真ん中にあるのがヒップホップというのが特に最高。フリースタイルの歌詞は若干こそばゆくなるものの登場人物がまだアマチュアでサイファーしてるだけなので逆にリアルだと思える。物語の要素として必ず出てきておかしくないだろうブレイキングバッド、舐達麻、タランティーノなどは直接触れないというのも品がある。(これ見よがしなことをしないのは簡単なようで難しいと思う)あとは主人公達が女子高生ということも影響してるのか犯罪小説だけど重たすぎず抜けが良い。そんな中でも今の日本社会における女性搾取の話をきっちり織り込んでそれに対するカウンターまで盛り込んでいるから痛快でオモシロい。このあと本当にどんな作家になるのか楽しみだし、絶対次の作品も読む。

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