穏やかなゴースト 画家・中園孔二を追って/村岡俊也 |
子ども向けに毎日教育テレビを再生していて、その流れで美術番組をたまたま見かけた。そこで特集されていたのが中園孔二だった。香川県での展示に合わせた特集で、その独特の絵の雰囲気がとても好きになった。けれども香川まで行くのも難しいので本著を読んだところ、信じられないくらいにオモシロかった…評伝は人の歴史なのでどうしたってオモシロくなるのが大半だけども、絵と格闘する1人の青年をつぶさに見つめた他の追随を許さない圧倒的なクオリティ。藝大出身ということもあり『ブルーピリオド』とクロスオーバーする部分があるので、『ブルーピリオド』が好きな人にも刺さるはず。
中園孔二は2015年に25歳という若さで海で亡くなっており、もうこの世にはいない。彼が亡くなるまでに残した絵を中心に著者が幼少期を含め彼の軌跡をたどっていく。取材ベースで友人、家族、講師、同級生など彼にまつわる膨大な証言が登場し、そのどれもがユニークでオモシロい。絵から感じるエナジーがハンパないので破天荒なのかと思いきや、動と静が混在するなんとも言えない人物像で興味深かった。人間誰しもアンビバレンスを抱えていると思うが、彼の場合の動と静は生きるか、死ぬかの極端な境界線になっているエピソードが多い。それゆえにあれだけの絵が描けるのかもしれない。と思いきや天才型かといえば、それだけな訳ではなく、ひたすら絵を描いた先にある境地に到達していたという話も興味深かった。
前半は彼が高校でバスケを辞めて、藝大に入りメキメキと頭角をあらわしていくのだけど、このパートが一番好きだった。好きなものにひたすらのめり込んでいくき、しかも藝大に現役で受かるくらいのクオリティーを叩き出してしまうのだからたまらない。後半は藝大卒業後、産みの苦しみと闘い内省している様が手記中心に書かれている。前半のある種無双しているフェーズとの対比が興味深く、また表現されている絵との相関を見ていくのも絵に造詣が深くなくても楽しめた。
彼に対する様々なパースペクティブがたくさん出てくるのを読むと「人に歴史あり」とはよく言ったものだなと思うし、これだけ取材しているのはジャーナリズムをひしひしと感じた。一方で亡くなった後にメモを含めこれだけ明らかにされてしまうことに対して、本人がどう思うか分からない。下世話さを感じる人もいるだろう。しかし本著は間違いなく読者の人生の深い部分にタッチできる稀有な書籍だと思う。関東近郊で展示があれば次は必ず見たい。
2 件のコメント:
面白いですよねー 私は展示見にいきました OJUNさんの追悼文も必読です(美術手帖のサイトで読めます)
ご無沙汰しております…!OJUNさんの追悼文これですよね。
https://bijutsutecho.com/magazine/insight/252
これも良かったですし、本の中でのOJUNさんの話も凄まじかったです…メールしました!
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