パパイヤ・ママイヤ/乗代雄介 |
『最高の任務』で好きになった著者の作品は定期的に読んでいて、これもショッキングな装丁を含めて気になっていたので読んだ。期せずして一夏の思い出の話であり、夏の読書としてはバッチリ。女子高生2人の甘酸っぱい思い出というおじさんから最も距離のある話だけど楽しめた。
タイトルのパパイヤ、ママイヤはそれぞれSNS上のハンドルネームでありネットで知り合った2人の女子高生が川のほとりで駄弁っているのが大筋。カントリーサイドの河口付近というのは著者の作品だと旅する練習と似たような舞台なんだけども、そこから感じる本当の意味での匂い立つような日本らしさが印象的。冒頭に顕著な普通の人なら何気なく見過ごしてしまうような川や周辺の自然の描写が丁寧で見ている世界のレイヤーの違いに毎回驚く。そんな中で2人が異なる境遇を少しずつ共有しながら友情を深めていく過程がとてもオモシロかった。大袈裟な事件は起こらないのだけども、当人たちにとっては大ごとである、というのは思春期そのもので愛らしい。ウイスキーの大ボトルであれだけ一喜一憂させられるのは愉快すぎた。友情が深まる中で己の理解が深まり、それぞれが自分の将来に対して明るい兆しを見つけていく点も好きだった。見つかる人生と見つからない人生では雲泥の差だから。
著者の最大の特徴は過去作から一貫して会話のリアリティにあると思う。物語に直接的に寄与しない会話こそが物語を豊かにする。神は細部に宿るとはまさにこのこと。その中でたまに芯を食ったパンチラインがありグッときた。一部引用。
「なんかなりたい自分だって気がするんだよね。あんたといる時だけ」
「探すとかじゃなくて、忘れちゃダメなんだと思うよ。自分が自分だってこと。」
「でも、やっぱ決めてる子はもうバシッと決めててさ。なんか、よくない?道が続いている感じ。あとは、今がんばって、その道をちゃんと進めるかどうかだけじゃん。ウチだってがんばってないわけじゃないけど、そのがんばりって学校の中で比べてるだけで、どこにも続いていない感じして」
エンディングとして2人の関係は友達、親友となっているのだけど、恋愛関係とも解釈できる気がする。ときめきの萌芽に思える場面がいくつかあったし、作者も友達以上恋人未満のギリギリを狙っているような…これとか友情よりも愛情の方が近い気がする。
わたしは、わたしのことを、私の知らないところで、わたし以上に考えたり汗を流してくれたりする人がこの世にいるなんて、やっぱり夢にも思えなかったのだろう。
まだ読んでいない作品があるので少しずつ楽しみたい。
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