2024年5月19日日曜日

ブルースだってただの唄

ブルースだってただの唄/藤本和子

 著者の作品がここ数年でたくさんリイシューされており、そのうちの1冊ということで読んだ。アフリカ系アメリカンのエスノグラフィーとして興味深かった。80年代の作品なので時代を感じる側面もあるが当時からまだまだ変わっていない現状も多い。それゆえに当時の記録の持つ意味を強く感じる読書体験だった。

第一章がウィスコンシン州にある刑務所で働く臨床心理医のジュリエットを中心にそこで働くメンバーのエスノグラフィー、メンバーによる討議で、第二章がブレンダという受刑者のストーリー、さらにプラスエピローグといった構成となっている。

 第一章ではアフリカ系アメリカンとしてUSで生きていくことのハードさがさまざまな立場から語られている。特に印象に残っている点は肌の色に関する議論だ。2024年のヒップホップにおける最大のトピックとなったであろうKendrick vs Drakeのビーフにおいてもカラーについてフォーカスされていたが、アフリカ系アメリカンにとって色の濃淡が人生に与える影響の大きさが語られている。それは色が濃い場合にも薄い場合にも両方それぞれにとって当事者にしかわかり得ないなやアジア系の自分には想像つかない感覚だが当事者たちの語りを読むうちに切実さが伝わってきた。当事者同士で濃淡を争うのではなく、肌の色で何かが決まってしまう社会システム自体に声をあげなければならないという話は至極もっともだった。(Kendrickは本来そういう立場だっただけにBeefとはいえカラーに関するラインは残念)また歴史の重要性も語られており、学校教育においてアフリカ系アメリカンの歴史がオミットされることで自分たちが立脚できる過去がない。そうなると今に希望を抱けなくなった瞬間あきらめてしまうという主張は無意識に過去、歴史に立脚できてしまっている自分の立場について振り返らせられた。その反動というか過去にすがれない分、今を大切にするためにコミュニティとしての結束が強いのだろう。

 第二章は夫の浮気相手を殺害して終身刑で服役、そこから恩赦を受けて減刑された女性の壮絶すぎるストーリーが語られている。彼女の生き様自体が1本の映画のように思えるが、こういった人が特別ではない過酷な環境が透けて見える。ドラッグアディクション、家族との関係などストラグルしなければならないことは山積みの中、刑を終えようと懸命に生きている姿はかっこいい。特にこのラインはしびれた。

牢獄を出てもね、それだけですぐに社会復帰がすぐにできるというわけにはいかないのよ。自分のうちなる牢獄を追い出すまでは、復帰が完了したことにならないのだものね。

 エピローグも含めて本著に登場する女性たちは自分たちの人生を勝ち取ろうと必死で生きているのが伝わってくる。タイトルはまさにそれを象徴していて、ブルースのように自分のみじめな立場を歌うだけではなく、ブルースとは「ちがう唄」を歌い上げる。James Brownの『Say It Loud』が引用されているように、それはファンクでありソウルであり今となってはヒップホップなのかもしれない。他の著作も早々に読みたい。

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