星に仄めかされて/多和田葉子 |
以前に読んだ地球にちりばめられての続編があると聞いて読んだ。SFと純文学の狭間な雰囲気が独特で、前作同様演劇を見ているような感じで楽しめた。
各登場人物の視点で順番に物語が進んでいく構成になっており、今回の舞台となる病院のメンバーが新たに登場人物として追加された。恋心を含めた人間関係が複雑に入り組みながら、よく分からない話が転がっていくところが興味深い。コペンハーゲンにある病院へとりあえず全員集合していくのだけど、その過程で各人の感情が著者の比喩を駆使して語られていき、そこには現状の社会問題を含めた話もあったりで興味深かった。どうしても皮肉めいたラインに惹かれる。以下引用。
大きな自然災害があって、県庁や市役所の書類が大量に燃えたり流されたりして、戸籍の代わりに生存者ナンバーのようなものができたらしい。「生存者ナンバー」ではあまりに悲惨なのでこのナンバーは「家がなくなっても気にするな、大丈夫だ、元気を出せ」というメッセージを込めて「ドンマイ・ナンバー」という名前になった。
大きいビールを注文し、速い車に乗り、美味しい肉を食べ、美しい歌手をテレビで観る。それだけで満足してしまう人間は、自分の人生に欠けている形容詞のことなど考えてもみないだろう。
言葉を口にすれば、必ず誰かを傷つける。絶対に傷つけないように細心の注意を払って遠回しな言い方をすれば、誰を傷つけないために何を口にしないようにしているのが逆にはっきり輪郭をあらわす。
最後に全員集まってしっちゃかめっちゃかなるのは前作を踏襲しているのだが、Susanooの露悪性が意外だった。さらぶそこで険悪になるわけではなくノアの箱舟的なエンディングになるのは予想外。「多様性」のくくりは安易なのではないか?という意図があると思うのだけど、それをロジカルというより感覚的にどっちらけにしてしまう大胆さがかっこいいと思えた。
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