家事は大変って気づきましたか?/ 阿古真理 |
小説家の滝口悠生さんにポッドキャストでおすすめいただいて読んだ。家事について改めて議題設定して、一つ一つ丁寧に議論している1冊でとても勉強になった。女性が家事を担っているケースが大半なので男性が家事をしない問題についてクリティカルなワードでビシバシとエグられるので自分としては一生懸命取り組んでいるつもりでもまだまだ甘いところもあると気付かされた。
家事に関する書籍では、時短などのHow toやエッセイなどが主流だと思うが、本著は定性的そして定量的に家事を考察している点が一番興味深かった。料理本、片付け本などの歴史や具体的な統計の数値を駆使しながら、家事が大変にも関わらず現在まで軽視され女性に一方的に押し付けられてきたか語られている。性別による役割分担で成長を遂げた時代を忘れられない人が多いし、その姿を見て育った人も刷り込みで当然だと思ってしまう部分もあり抜本的に何かを変えるのは難しく感じた。各当事者が当たり前を更新していくことで社会が変わっていくことを期待したい。(遠い目)
特に「名前のない家事」という概念が衝撃だった。「風呂掃除」「昼食作り」のように決まったフレームの中で取り進めて完了する家事ではなく、「買ってきた野菜を冷蔵庫に入れる」「肉や米を小分けにして冷凍保存する」「洗剤を詰め替える」といった生活する中でフローのように存在する家事の多くを女性が担当しているケースが多い。結果、分担がイーブンに見えたとしても女性の負担が多いというのはぐうの音も出なかった。気づいたら対応しているけど、気づくかどうかはシステム化されてなくて自分次第なので、これからは意識していきたい。
また個人的に気になっていた一汁一菜についても取り上げられていた。食事を作るハードルを下げる意味で機能はしているが、土井善晴本人の意図としては手作りかつ母の愛情といった旧来然とした家的な価値観のアプローチらしく、そこでギャップが出た話はオモシロかった。著者も食事の重要性については主張しており、食べたいものを料理をすることで自分の家事に対する主体性を取り戻す話が興味深かった。自分も一汁一菜というより食事を楽しみたい勢なので、そう考える自分が積極的に菜を作らねば…とも思った。
近年話題のケアについても家事の観点から1章丸ごと使って語られている。フェミニズム、資本主義、家父長制などの社会的背景と家事を踏まえながらケアの必要性を説いており、中でも以下のラインが刺さった。
無駄な時間や労力を使わないことは、一般的なビジネスの場では生産性が高いと評価されるが、ケアで時間を惜しめば十分な目的を果たせない。なぜなら、ケアの最大の目的は、相手に関心を払い大切にすることだから。それはつまり、愛である。「生産性の高い愛」なんて要求したら、恋人は怒って去ってしまいそうだ。
一事が万事、家事に対する主体性を持つことが何よりも重要だという主張で至極真っ当だと思う。終盤にかけては著者から見た問題点がつるべ打ちされ強い言葉で現状について疑問を呈していた。各人の努力も必要だけど、それには限界がありシステムの変化こそが最大の解決策なのは間違いない。今の政権のままでは社会構造は何も変わらないので選挙に行って自分の意思を示す必要がある。現状維持していても明るい未来は絶対来ないから。
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