ニューカルマ/新庄耕 |
マルチ商法を題材にした小説。久しぶりにまっすぐくなエンタメ小説を読んだけど、めちゃくちゃオモシロかった。今も昔も形を変えて存在し続けるマルチビジネス(またの名をネットワークビジネス)にはまってしまう1人の若者を主人公にして幸不幸を描いていく。おそらくめちゃくちゃ取材をしていることが文章から伺えてとてもリアルだった。会社でサラリーマンとして働いていて感じる何となくの虚無感が文章からにじみ出ている。マルチをネズミ講と同等と見なして、あきらかに胡散臭いと思っているのに自分の環境や立場が少し変わることでコロッとハマってしまう怖さ。そして一度壊れた人間関係は元に戻ることはなくて孤立を深めていく残酷さ。その結果、見ず知らずの人をどんどんマルチの渦に巻き込んでいく地獄さ。
対比として圧倒的な「正しさ」を持った友人を登場させている点も興味深かった。文庫版の解説にもあったが、終盤にかけてマルチが主張する「正しさ」と社会が主張する「正しさ」が溶け合って結局何が正しいのか分からなくなってしまう。巻き込まれていって抜け出せない人が後を絶たないのは、善悪の区別が曖昧になるからなのだとよく分かった。先が不透明で夢の見れない国において若者たちが夢見て向かう先がマルチだなんて悲しすぎるけど、その気持ちが痛いほどによく分かるので余計に辛い…自分の努力が目に見えてお金に還元されて承認欲求も満たせるのだから。幸い今まで誘われたことは一度もないけど、もしやっている人がいればこれを読んでみて欲しい。
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