2021年2月14日日曜日

闇の自己啓発

  

闇の自己啓発/江永 泉, 木澤 佐登志, ひでシス, 役所 暁

 noteで連載している読書会の様子を書籍化した1冊。ネットでたまたま見かけてタイトルに惹かれて読んでみたらめちゃくちゃオモシロかった。普段使わない脳みその部分がスパークするような感じで「まさに啓発されている!今!」と感じる瞬間が読んでいて何度もあった。佐々木中の人文系書籍に近い感覚。ただし著者らは人文/哲学的な議論に加えて最新のテクノロジーさらにはSFを中心としたフィクションまで、ここまで横断的に語ることができるのは圧巻だと思う。構成としては読書会なので1冊の本を読んで何を考えたのか、お互いに話し合っているのだけど、その本は当然のこと膨大な他の本の引用が出てくるところが特徴的だと思う。それらがとても興味深く思えて読書ガイドとしても抜群。まえがきにも書いてあったけど基本webで読めるものの、本版には膨大な注釈がついて、それによってさらに理解が深まった点が大いにあったのでkindleで読むとかなり読みやすかった。
 このタイプの本の苦手なところとして明らかに一読しても分からない議論の複雑な展開があったりして、実際特定の参加者が延々と語っている部分は読むのがしんどかった。(自分の読解力のなさは理解しています)しかし基本的には対話形式になっているので、他の参加者のコメントが理解の補助線になって読み進めることができる。興味深いなと思ったのは自由意志の議論で、国家/個人/社会を背景にAIを中心としたテクノロジーの介入とその未来。みたいな話を延々としていて読書会に参加しているような気持ちになった。
 本作でそこまで深く言及されていないけど「自己啓発本」についてはあんまり得意ではないというか、即効性が高いかもしれないが安易に回答を求めて自分で考えていない気がどうしてもしてしまう。(歳を取るにつれて、しんどい人が読むのは理解できるようになったけど)そういった気持ちを超エモーショナルな文章で代弁してくれていたので最後に引用しておく。

自分に与えられた課題、降りかかってきた悩みを分類し、「類題の解答例」を真似するためではなく、ひとつの謎になるために生きること。己にしか立てられぬ問いを身で以て示すように生きること。そのための「直観」を身に着けること。そのための読書。そのための物語。そのための思想。そのための、「闇の自己啓発」。無数の魔の手が覆い、無数の導きの光が射し込む中、この身体で感じとる、かすかな暗闇を、失わずにつかむための。

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