2021年2月1日月曜日

スローターハウス5/ カート・ヴォネガット・ジュニア

スローターハウス5/ カート・ヴォネガット・ジュニア

 和田誠による表紙がキャッチ―さで気になりつつ、5巻しか本屋とか古本屋で見ないなーと思ったら「No.5」という意味で5巻という意味ではないことを最初にお伝えしておきたい。読むのは2作目でジャンル分けするならSFなんだろうけどかなり独特の作風。これだけオリジナリティの高い作風があるからこそ死後何年経っても有名なのだろうなーと思わされる作品だった。
 ざっくり説明すると私小説+時間空間横断SFという構造。著者が第二次大戦でドイツのドレスデンという街で体験した空襲をベースにしていて、1人の主人公が生きた様々な年代を並行して描いていく。この並行というのが第三者視点で並行という訳ではなく主人公が自覚しているところがポイントで、要するに主人公はタイムスリップを当たり前に受け入れている。なぜなら異星人に誘拐されたから。ぶっ飛んだ設定なものの各時代ごとに描いている内容は真面目というか人類が戦争にいか振り回されているか描いているのでオモシロかった。ドレスデンにおける爆撃の壮絶さを主張するために広島の原爆よりも酷かったと書かれている点が日本人的には引っかかると思うけど、その辺りは訳者あとがきで細かく解説されてい納得した。
 厭世観が全体に漂っているのも特徴的で過去も現在も未来もすべて等価だと考えているので1つ1つの事象に執着しておらず「そういうことだ(So it goes)」と受け入れていく。これは辛い思いをしたときに行うある種の処世術のようにも思えた。思考停止とニアミスだけども…ただそんなときこそフィクション(嘘)こそ必要なんだと以下ラインから著者の思いを感じた。

(語尾の感じも訳者の人の感情が入っていて好き)

「思うんだがね、あんたたちはそろそろ、すてきな新しい嘘をたくさんこしらえなきゃいけないんじゃないか。でないとみんな生きていくのがいやんなっちまうぜ」

フィクションを読んでいると現実と向き合ってないような気がするときがたまにあるけど、そのときはこの言葉を金科玉条にゆるりと生きていきたい。

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