2024年1月22日月曜日

第四間氷期

第四間氷期/安部公房

 ブックオフとか古本屋で安部公房の新潮文庫で銀の装丁のやつがあると買うようにしている。本著も以前に買って積んでいたので読んだ。どの作品もめっちゃ好きだけど、この作品も例に漏れず好きだった。これが1950年代に書かれていたことには驚くしかなかった。

 今流行りの人工知能がテーマ。マザーコンピュータ的な人工知能が未来を予測することに成功し、その未来に対して人類がどのように考え、アプローチするかというのが大筋。前半は推理小説仕立てになっていて、とにかく謎が膨らみまくるし、アクションシーンも多くシンプルにエンタメとしてオモシロかった。また会話劇が中心になっている点も意表を突かれる構成で堅めの内容の割に読みやすくはあった。

 未来をどう評価するかがテーマとなっており、著者自身のあとがき、文庫の解説でもかなり踏み込んで考察されている。現在を犠牲にして未来を優先するのか?といった、現在から未来を評価する意味を問うており、SFというジャンルに対して批評的であった。SFでは物語を通じて未来のことを肯定したり否定したりするけど、それって結局現在の価値観を尺度にしているよねという指摘。ゆえに堕胎であったり、その胎児を水棲動物にするといったように現在の価値観からするとエグめの設定を用意しているのが秀逸だった。挿絵として各シーンの版画が掲載されているのだけど、絵の内容もあいまって正直面食らった。未来の話をする上で子どもは最たる象徴であり、そこを躊躇なしに異形のものとして描いているのはかっこいいと思う。シンギュラリティの結果として第二の自分が発生し、それに自らの運命を翻弄される点も興味深かった。繰り返しになるが、このように未来的な描写のどれもが1950年代と思えないし著者の先見の明にただただ驚くばかり。(もしくは我々の未来に対するイメージが更新されていないだけかもしれないが)

 現在を大切にして未来の課題を先送りにしようとする主人公の姿勢が終盤には裁判のようなアプローチで断罪されるのだけど「これだから年寄りは」という一種の諦念じみた目線を部下から送られるシーンがたくさんある。これも今読むと胸が苦しくなる。どっちも間違っていないものの未来を大切にするエレガンスに対して現状維持する保守ってどうやっても今の時代は勝つの難しいよな〜と個人的には感じた。こういった古典を読む時間も今年は大切にしていきたい。

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