2024年1月11日木曜日

「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済

その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済/小川さやか

 同著者の『チョンキンマンションのボスは知っている』が以前から気になっている中で先に新書を読んでみた。日本という枠組みで生きていると絶対に気づくことができない視座の連続。これぞ読書の醍醐味という感じで興味深かった。我々の当たり前が当たり前ではない世界から学ぶことがたくさんあるなぁと感じた。

 文化人類学者である著者がフィールドワークを含め研究してきたタンザニアの商売の状況を中心に「その日暮らし」=Living for todayをキーワードにして様々な論点を解説してくれている。具体的な仕事の中身もさることながら、仕事をする上での価値観や仕事の在り方が現状の資本主義社会と大きく異なり、そこがもっとも興味深い。たとえば時間の感覚。私たちは来たるべき未来に向けて備えるために現在を犠牲にすること(ローン、貯金など)が往々にしてあるが、彼らは1日をどう生きていくかに焦点をおく。つまり未来のことはほとんど考えないし、不安定であることを不安に思わず、場当たり的な対応を繰り返す。あらかじめ計画し生産性や効率性を追い求める社会に生きているので違和感しかないのだけども、社会全体が暗黙のうちにコンセンサスが取れているのであれば、弾力性のある社会が形成されることを知れた。と同時に社会が硬直していることが日本の今の息苦しさの要因だとも感じた。もっと思いつきとかノリでやれることを増やしていきたい。(隣の芝生が青く見えているだけかもしれないが…)

 また近年話題の負債論についてもタンザニアの事例から、負債を負債として取り扱わずに誰もがお互いに「借り」があると感じながら支え合う話に納得した。日本で金銭の貸し借りについて、タンザニアほどラディカルな考え方を持つことは難しいと思う一方、電車や公園などの公共空間ではお互いに「借り」があるという認識を持てれば少しは生きやすくなるのでは?と思う。信頼の概念は従来の資本主義社会の中でも変えていけるのではないかという希望を持ちたい。この言葉とかかっけぇっす。

「俺たちが困難なときに頼りにするのは、仲間の人間性( utu)だ。なぜなら、困ったときに『貸してくれ』と頼ることができる友とは、同じく困ったときに頼ることができる仲間がたくさんいる人だ。たくさんの仲間に助けてもらえる人間がいい友であることは、昔から変わらぬ事実だ」

コピー商品を中国から輸入してアフリカで販売するというビジネスの流れについて細かく解説されており、その話題の中心にあるのが香港にあるチョンキンマンション。その有象無象っぷりが未知のこと過ぎてめちゃくちゃオモシロかった。なので『チョンキンマンションのボスは知っている』も早々に読みたい。

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