2025年8月25日月曜日

さかだち日記

さかだち日記/中島らも

 ぶってえ本を連発で読んでいたので、古本屋でサルベージした本著を読んだ。『アマニタ・パンセリナ』を読んで、中島らものオモシロさに改めて気づいて古本屋で見たら買うようにしている。日記ということもあり、彼の生活の機微が伝わってきて興味深かった。

 95年5月にアルコール依存症と躁うつ病で入院して、そこで断酒を決意。そこから一年後の96年5月〜98年4月までの日記となっている。(タイトルの「さかだち」は「酒断ち」を意味している。)作家、ラジオパーソナリティ、役者、バンドマンとマルチタレントとして多忙な時期を過ごしている頃の様子が伺える。バタやんというマネージャーと二人三脚で、仕事をこなす日々は退廃的なイメージとは裏腹であった。それだけに酒がいかに危ないか証明するような日記である。一度、連続飲酒が炸裂するシーンがあるのだが、そのときのタガの外れ方が尋常ではなくスリリングだった。

 バブル崩壊後とはいえ、まだまだ日本は豊かだったのか、連載原稿のために海外旅行にバンバン行っているのが印象的だ。インターネット登場以前、紙媒体が持っていた情報の価値の高さに思いを馳せた。海外に行くと、やはりジャンキーの血がうずくのか、入手方法やそれをキメた感想などが書かれており、酒をやめている分、そこで発散するようにしていたのかもしれない。前述の酒のシーンに比べると、どれも穏やかなので、酒のようなハードドラッグが手軽に安く入手できるのに、大麻に対して異常に厳しい今の日本の状況は合理的には納得しづらいなと改めて感じた。そして同じことを著者も憂いていた。

 冒頭とエンディングには野坂昭如との対談が掲載されている。冒頭は断酒について、エンディングはバイアグラについて。前者では、それぞれの断酒方法や酒をやめるまでの経緯などについて話しており日記の導入として機能しているのだが、問題は後者である。脈絡なく、二人がその場でバイアグラを飲む対談が載っており、丁々発止のやりとりを披露している。ただの露悪趣味の企画と思いきや、野坂がアメリカ論にリーチするあたりが油断ならない作家ならではの展開だった。小説、エッセイ、悩み相談など膨大な著作があるので、他のも少しずつ読んでいきたい。

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