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派遣者たち/キム・チョヨプ |
小説家の中で、リリースのたびに迷わず買う数少ない作家、キム・チョヨプ。本著は長編ということで楽しみにしていたが、今回も期待を裏切らないオモシロさだった。「共生」がテーマであり、今の時代に読むと、ことさら胸に沁み入るものがあった。
舞台は地球が荒廃し、人類が地下で暮らすクラシカルなポストアポカリプス的世界。地上は、菌をモチーフにした異生物「氾濫体」に支配されており、選ばれし「派遣者」が地上に出て調査や探索を行う。主人公は、自分の脳内に存在するオルターエゴのような存在と関わりながら任務を進める。当初は生成AIによるCopilotのように、こちらの利益を最大化するために相手を利用する関係だったところから、物語が進むにつれてジャンプ漫画のような熱いバディへと変化していく。(シャーマンキングとか?たとえが古すぎて終わっている…)
氾濫体に侵食されると、人間は錯乱状態に陥り、やがて死に至るため敵視されている。ゆえに氾濫体を絶対悪として描き、その異生物から世界を奪還するのだ!という勧善懲悪な構図を想像するかもしれないが、著者はそんな単純な物語にはしない。人間と氾濫体の狭間の存在について、さまざまなグラデーションで描き出し、世界の豊かさと難しさを同時に表現している。価値観どころか姿、形も全く異なる生物同士が協調して、どうすれば同じ世界で生きていけるか模索する。メッセージ性を失わず、ダイナミックな物語としてドライブさせながら描き切るその筆致がキム・チョヨプらしい。
個人的ハイライトは、スーサイドスクアッドならぬスーサイドトリオによる過酷なミッションだ。それぞれが命をかける事情を抱えつつ、協力し、ときに衝突しながら、探究心で物事を明らかにしようとする姿は、それぞれの動機があるとはいえ、サイエンスそのものだった。終盤にかけては、主人公の善悪の揺らぎと儚い恋心が重なり、怒涛のクライマックスへと向かっていく。著者がストーリーテラーとして、よりポップでエンタメ性の高いステージに突入していることがよくわかった。
物語の背景にあるのは、人間を「さまざまな生物の集合体」として捉える視点である。私たちの体内には無数の菌や微生物が共生している。つまり、自分と関係ないと思っていても、いつのまにか関係している、その象徴としての菌は「共生」というテーマで物語を紡ぐ場合、これ以上に適当なモチーフはないだろう。主人公の親代わりの存在であるジャスワンという登場人物の言葉はシンプルにそのテーマを表現していた。
大事なのはね、自分が自分だけで成り立ってるって幻想を捨てること。そしたら、可能性は無限だよ
日本でも、幻想に溺れている人々がたくさんいることが可視化されてしまった今、誰かと共に生きることを考える上では、うってつけの小説だ。
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