![]() |
それでも不安なあなたのためのクルドの話/小倉美保 |
埼玉県川口市における「クルド人問題」と称された行政課題がよく取り上げられている。特にゼノフォビアの傾向が先日の選挙で大きく可視化されたことで、現実がどうなっているか知りたくなり、浦和のパルコで開催されていた本の催事で購入した。
本著は、市民公開講座での講演をもとに書籍化されたもの。著者は蕨で本屋兼カフェを営み、川口市に長年暮らしながら、クルド人との交流の場づくりにも積極的に関わってきた人物である。その立場から見た「川口市とクルド人」の現状が、具体的に語られている。
講義形式の文体で読みやすく、難解な専門書とは異なり、現場感覚を伴ったリアルが平易な言葉で整理されているのがありがたい。歴史や統計の基礎知識も改めてまとめられていて、「自分たちがいかに印象論だけで会話していたか」に気づかされる。調べようと思えば調べられるのに、ついサボってSNSの濃いヘイト情報に触れ、負の循環を強めてしまう現状を思うと、静的なメディアである「本」から情報を得ることの重要性を再確認した。
難民に対して、日本側の制度整備が追いついていない問題が取り上げられている。 特に難民認定まで時間がかかる問題が今の相互不理解の大元となっているようだ。制度改善は当然のことだが、現状の日本の社会の仕組みがどうなっているかを当事者にわかるように説明することが必要だという話は現場を見ている人ならではの意見だった。
「ゼノフォビア絶対ダメ!」というゼロサム思考になっていない点が本著の白眉だろう。嫌悪する気持ちがないことに越したことはないわけだが、欧米各国に比べて「単一民族国家風」の時期が長かった日本では、異なる文化背景を持つ人に違和感を覚える場面もあるかもしれない。そんなときに「外国人だから」という短絡的な思考に陥るのではなく、そこの個別性に着目することが大切だという指摘はもっともである。 言い換えれば、それは「他者とどう向き合うか」という普遍的な問いであり、今の日本社会で共に生きていくための貴重なヒントに満ちた一冊である。
0 件のコメント:
コメントを投稿