プリンス録音術/ジェイク・ブラウン |
プリンスが亡くなって早八年。昔から好きなアーティストなんだけど、その膨大なカタログに圧倒され、部分的にしかこれまで聞いたことがなかった。本著は「スタジオにおけるプリンス」にフォーカスしており、読みながら改めて一枚一枚アルバムに向き合ってみると、その音楽的豊穣さに驚いた。
1977年のデビューから1994年までをアルバムごとに、どのように録音されたか、過去の資料、文献にあたりながら紹介する構成となっている。今でこそマルチに楽器を演奏するアーティストはDTMの普及もあいまってたくさんいる。しかし、プリンスのように、どの楽器も圧倒的なレベルで演奏可能なプレイヤーはいないだろう。なおかつ彼はコンポーザー、エンジニアとしても超一級の腕を持っていたことが、本著では詳らかとなっていた。
十代でデビュー、しかもメジャーレーベルで初めて全曲セルフプロデュースするという金字塔を打ち立てたことからも、彼のインディペンデントマインドが伝わってくる。「新しい曲が毎日脳内で鳴り響くので、それをひたすら具現化しているだけだ」という天才としか思えない発言と、その言葉を裏付けるだけの膨大な楽曲群の裏話はどれも興味深かった。かなり専門的な機材、楽器の話が多く、いかにプリンスが音に対して強いこだわりを持っていたか、よく分かる。音楽を作る上で過程がいくつかある中で、マスタリング以外はミックス含めて全部コミットしていた。しかも、本著で紹介されているのはすべてアナログ機材の頃の話である。コンピューター上でイジってすぐに反映される今のような環境ではない。いかにプリンスが音楽を作ることにかけて天才だったか思い知らされた。
機材の進化が音の進化に今以上に直結している時代で、シンセサイザー、エフェクター、マルチトラックレコーダーの進化=彼のサウンドの進化と言って差し支えないだろう。シグネチャーであるリンドラムへの愛着、バンドサウンドの取り扱い、サンプラーやMIDIの導入など、彼がテクノロジーを自分のものにして曲に落とし込む過程について、本人およびエンジニアの証言で確認していくのは機材、エンジニアリング好きにはたまらなかった。
プリンスはデジタル、アナログのこだわりはなく、自分が表現したい音があり、その目標に猪突猛進していく。そのワーカホリックさに畏怖の念を抱いた。他人にも自分と同じレベルを要求するストイックな一方で、ボーカル録音の際には他人を一切介在させない繊細さが同居している点がプリンスらしい。サブスク時代の恩恵として、こういった書籍をアルバムを聞きながら読めるのは最高の時代である。今後も膨大な未発表曲が少しずつリリースされるはずなので楽しみに待ちたい。
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