2023年1月31日火曜日

とんこつQ&A

 

とんこつQ&A/今村夏子

 今村夏子を昨年から読み始めてついに最新作まで追いついた。本著もまた日常に潜む不穏性が際立つ小説でオモシロかった。毎回書いているけどよくこんなこと思いつくなっていう話ばかりだし独特のシュールさは著者の本でしか楽しめないので今後もリリースし続けてほしい。

 全部で4つの短編が入っていて、その中の一つがタイトル作。このタイトル見ただけで何事?となるし本屋で見たら絶対手に取りたくなるキャッチーさがある。家族で経営する老舗の中華料理屋で女性がバイトするだけの話なんだけど、めちゃくちゃオモシロい。テーマはAIや機械学習。お客さんとのやりとりが苦手な人が事前にやりとりをQA形式にしてメモを見ながら受け答えする。ここまでは理解できるのだけど、そこへもう1人のバイトが入ってくる。その彼女はまるで空っぽのロボットのような存在で自分で考えて動く素振りを見せず、ただ指示されたことは完璧にこなす。そんなQuestionに対して特定のAnswerを返すbotのような人間がいたら?そこからさらに進んでbotが応答だけではなく感情を込められるようになったら?そんなことを中華料理屋のバイトを通じて考えさせてくる著者の発想の豊かさにやられた。さらにレイヤーとしてヤングケアラーの話も用意されていて社会との接続点もきっちり用意されているのだから脱帽するしかなかった。

 また残りの3つの短編も当然オモシロくていずれも「善意と背徳感」がテーマになっている。良かれと思ってやることが生む地獄の帰結、その後ろめたさを抱えた人の話ばかり。そういった人間たちの悲喜こもごもは当人にとっては地獄だが側から見ると滑稽に思えてしまう。なかでも「良夫婦」は関係ない他人にいっちょがみする割に目の前の現実には対処できない皮肉がたっぷりと込められており最近のSNSのムードを反映しているように感じた。次の作品は久しぶりに長編読みたい。

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