2023年1月17日火曜日

本屋で待つ

本屋で待つ/佐藤友則・島田潤一郎

  夏葉社の新作で本屋の話なら読むでしょ、ってことで読んだ。広島にある本屋の経営者が語る本屋再生物語で興味深かった。著者の実家が本屋を営んでおり、その支店として出店したウィー東城店をいかに再建してきたかが綴られている。本屋としてのストラグルの歴史が詳細に記録されておりサービス、経営と主に2つの観点があり両方ともかなり読み応えがあった。

 サービスの観点では本屋が街の中で担う機能に関する考察と実践が興味深かった。お客さんの需要を起点としてビジネスを考えるのは基本だと思うが、ここまでお客さんと向き合って需要を見定めていく作業を今行っているところはあるのだろうか?データをこねくり回しても出てこない、目の前のお客さんがいるからビジネスが成立するという当たり前の事実に気付かされること山の如し。本の低い原価率から利益を出すため、集客するために他のビジネスを兼ねていく、というのは近年のトレンドだが著者はその先がけで実績を出しており、その具体的な過程を知れてオモシロかった。兼業できるのが本屋の強みだと書かれていて、その視点はなかったので興味深かった。

 経営の観点では従業員のマネジメントの話が一番オモシロかった。不登校だった学生たちが徐々に社会に適合していく過程を本屋が担う。本著内で終盤に著者が言及しているとおり実績至上主義的な社会において、すぐに結果が出せない、もしくは適合できない場合に社会が切り捨てていく風潮が強くなっている。その中において待つこと、聞くことの必要性を著者が説いており、とても響いた。言うだけなら誰でもできるけど実際にそれをお店を経営しながら実践しているのがかっこいいと思う。本や本屋をテーマにした書籍は近年増えているが、読んだことのない角度だし特別なようで特別ではない、そんな街の本屋の話はまだまだ読みたい。

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