野原/ローベルト・ゼータラー |
前作の「ある一生」がかなり好きだったので即買い、即読み。前作の方が好みだったもののオモシロかった。
ある1つの街にある墓地を舞台に、そこに眠る死者たちの物語を短編形式で描いていくスタイル。前作も市井の1人の人生を追ったものだったが、本作もその系譜にあり死者たちの人生のワンシーンが各短編で切り出されており、なんてことない日々の積み重ね、その中にある小さな出来事が人生を構成することに気づかせてくれる。死者という設定なので、その人がいつを思い出すのか?がポイント。子どもの頃なのか、死ぬ間際なのか。そこに人生の味が滲み出していてオモシロかった。あと文体として体言止めの多用が特徴的でフレーズの連打で読み手に街の風景をイメージさせるのは詩に近いところがあった。
同じ街の話なので、各人物の視点の違いを楽しむことができるのも良い点だと思う。とても近い存在同士、たとえば夫婦間の視点の違いもあるし、一方で街を通じて共に生きていた、というレベルの緩い繋がりも散見される。「この人どっかで見たな」というのが実際に街で生活していて人と遭遇する体験に近いのでリアリティを感じた。キーパーソンは昔の市長で当人のチャプターはもちろんあるし、他のチャプターでも悪そうなキャラで登場するのが好きだった。一番好きだったのは街一番の長寿の女性のチャプター。尊厳にまつわる以下ラインが刺さった。
尊厳がなければ、人は無だ。可能な限りは、尊厳を保てるよう自分で努力すべきだ。けれど終わりに近づくにつれて、尊厳はもう人から与えてもらうしかなくなる。尊厳は、ほかの人たちの視線の中にあるから。
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