送別の餃子/井口淳子 |
ブクログのタイムラインで流れてきて印象的なタイトルに惹かれて読んだ。学者の著者が中国でフィールドワークしているあいだに遭遇した中国人との思い出が綴られていて興味深い。また今すぐ会いたい、会えるわけでもないけど、自分の人生の中で通り過ぎた人たちに関する思い出話は個人的にとても好き。そして本著はそれの詰め合わせであり最高なのであった。
一番オモシロかったのは著者が1980年代に中国の農村でフィールドワークしていた頃の話。今のように中国が豊かになる前で、80年代でこんな生活レベルだったのか?と驚く話の連続だった。そんな貧しい生活の中に根付く音楽をひたむきに調査している著者と現地の人々のやりとりは心温まるものが多い。今のように世界で戦争が起こっている中だと人間不信がうっすら社会に蔓延していくよなぁと最近考えていた。しかし著者が冒頭で宣言している通り、国がどうこうというのは超えてあくまで人同士の関係なのだと思えて心の平穏を取り戻せた。(ゆえに特定の国に対して誰彼問わずヘイトを飛ばしている人間には中指を)
知らなくて興味深かったのは、中国語では日本語における「やさしい」に該当する言葉がないということ。生存するのが厳しい環境だったからこそ曖昧な概念を許さないがゆえらしい。しかしそれは逆をかえすと中途半端な「やさしさ」は存在せず困っている人がいたらすぐに助ける、そういった直接性は健康的だし社会としては生きやすいだろうと思えた。(功利主義ゆえなのかもしれないけど)
本の装丁や挿絵も本著の大きな特徴。絵は味があって文字だけでなかなか伝わらない中国の文化が直接伝わってきて良かった。背表紙が餃子の皮で包まれているのもかわいい。インデペンデントな出版社だからこそできるフットワークと懐の深さが産んだ本だと思うので他の本も読んでみたい。
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