掃除婦のための手引き書 /ルシア・ベルリン |
単行本がリリースされたときから読みたいと思っていたら文庫化されていたので駅構内のブックファーストで衝動買いした。短編集なんだけど読み応えがあってオモシロかった。自分の人生に肉薄してくるような感覚になるエピソードの連発かつ文章の巧みさに引き込まれる。装丁はクラフト・エヴィング商會、翻訳は岸本佐知子という鉄壁布陣なのも最&高。
訳者あとがきにあるように著者はそこまで有名な作家ではなかったものの本著をキッカケに改めて評価が高まったらしい。いわゆる私小説で著者自身が経験したことをベースにしているからか、どのストーリーもディテールが細かく眼前に風景がありありと浮かんでくる。同じ登場人物が繰り返し登場するので緩やかな時間の経過も感じることができて単なる短編集ではなく本が編まれることでグルーブが生まれている。それこそDJのMIXのよう。
これに加えて表現のかっこよさ、そこかしこに埋め込まれているパンチラインがグッとくる。なかなか最近読んでいるだけでウットリするような文に出会えてなかったけど本著はそんな場面が何度もあった。個人的に一番好きだったのは「さあ土曜日だ」という話。刑務所にまつわる話で、エンディングの虚無さも好きなのはもちろんのこと冒頭の5行くらいでブチ上がりすぎて声出た。なかなかこんなことはない。それだけじゃなくて色んな人ところに最高なラインがちりばめられているので引用。
他人の苦しみがよくわかるなどという人間はみんな阿呆だからだ。
かわいそうに。過去の因習に囚われて、他人にああしなさいこう考えなさいと命令されて、ずっとそうやってがんじがらめで生きていくのね。わたしは誰かの目を楽しませるために装うわけじゃない。
日々の習慣も記念日も、何もかもが空疎なまやかしに思えてくることだ。すべては人をあやし、なだめすかして、粛々と容赦のない時の流れに押し戻そうとするペテンなのではないかと思えてくる。
労働、病気などにおける厳しい現実が各エピソードに散りばめられているのだけど、その厳しさを「そうはいってもこういう幸せの形もあるよね」みたいに変にごまかさないところがかっこいいと思う。辛いことも人生の一部なのだと受け入れいていく姿勢が現代の現実至上主義とフィットするところあるのかな?と邪推したり。文学の力を久しぶりに感じた1冊だった。
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