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| 未来/ナオミ・オルダーマン |
美玉ラジオで紹介されていて、それを聞きながらブックオフをぶらついていたら、偶然にも目の前に本著があった。そんな巡り合わせで購入したまま積んでいたのだが、ここ数年は「Summer Reading」に乗っかり、夏に鈍器本を読むのが恒例になっており、満を持して500ページ超の本著に挑んだ。現代的なテーマをこれでもかと盛り込みながら、それらをエンターテインメントとして見事に昇華した一冊だった。
著者は前作『パワー』が世界的なベストセラーとなり、そちらで知っている人も多いだろう。訳者あとがきによると、マーガレット・アトウッドの弟子筋にあたるらしい。本著は終末SFという王道の枠組みを用いながら、「世界を支配するビッグテック企業のCEOたちが急に姿を消したら社会はどうなるのか」という思考実験を起点にしている。この設定が非常に新鮮だった。しかも舞台は限りなく近未来であるため、SFでありながら現実の延長線上として読めるリアリティがある。テックに関心のある人なら、とりわけ引き込まれるだろう。
主人公はサバイバル系YouTuberとビッグテック企業の秘書という二人。冒頭で謎めいた激しいアクションが描かれ、その出来事を起点に、終末世界をどう生き延びるのかが多角的な視点から語られていく。
印象的だったのは、終末論を思想的に支えるソドムとアブラハムをめぐるモチーフだ。旧約聖書を下敷きにしているのだが、神話は毎回読んでもなかなか頭に入ってこないのだが、比較的理解しやすかった。それは複数のテーマに重ねながら繰り返し描かれるため、寓話として自然に読み解くことができたからだろう。
なかでも表紙に描かれた「キツネ」と「ウサギ」は、本著を象徴する重要なモチーフである。狩りをしながら移動していたキツネだった人類が、一か所(都市)に定住するウサギへと変化してしまった。そんな比喩を通じて現代社会を読み解いていく。その停滞こそが世界を滅ぼす根源だとするラディカルな視点に、環境問題や資本主義への批判が接続されていく構成が見事だった。それは現在の加速度的な資本主義の浸透に対するカウンターでもあり同時代性があった。
物語全体にインターネット、SNS、AIを中心としたテクノロジーに対する懐疑的な視線が投げかけられており、フィールする内容が多かった。ネット上で机上の空論を交わし、何かを成し遂げた気になっていても、現実は何一つ変わっていないことはよくあることだ。そこから抜け出すには身体を伴った行動が必要であり、その先には現実世界そのものの尊さがある。そんなメッセージが胸に響いた。
物語のギミックが豊富で、500ページを超える長さにもかかわらず最後まで飽きさせない。掲示板形式の書き込みが随所に挟まれる構成が効果的だし、終盤にはどんでん返しが何度も繰り広げられ、読んでいてハラハラした。複雑な人間関係のなかで、それぞれの思惑が絡み合いながら社会が変化していく様子は読み応え十分だった。その展開は計算されているというよりも、未来の予見不可能性を物語に組み込んでいるようだ。さまざまな出来事や個人の選択が少しずつかみ合って社会は変化していく。つまり「一人一人の行動変容こそが未来を変えていくのである」というメッセージだと受け取った。まさにONE PERSON ONE POWER。
未来という言葉には期待と不安が常に同居している。本著はその両極を振り子のように行き来しながら、私たちは何を拠り所にこれから生きていけばいいのか問うてくる。目先の利益を利己的に目指していくような現代だからこそ、誰のために、何のために生きていくのかについて、考えさせてくれる小説だった。

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