2026年8月7日金曜日

菊地成孔の粋な夜電波 シーズン13-16 ラストランと♂ティアラ通信篇

菊地成孔の粋な夜電波 シーズン13-16 ラストランと♂ティアラ通信篇

 著者が旧Twitterと意識的に距離を取ってきた中で、とうとう現Xに飲み込まれ、暴れまくっている様子を見て、ずっと取っておいた最終巻を手に取った。同じ内容だとしても、X上の言葉と、ラジオで話す言葉はまったく異なる印象を受けるのだな、という当たり前の事実に気づいたのだった。

 過去作はすべてKindleで買ってきたのだが、いつのまにか販売休止となっている。手元にあるKindleでは読むことができて安心したものの、いつ引き上げられるかわからないなとも思う。本著だけ出版社が変更になり、Kindleになるのをずーっと待っていたのだが、一向にリリースされないので観念して紙で購入したのだった。

 それはさておき、本著ではシーズン13〜16ということで、私がリアルタイムで聞いていたエピソードがいくつも収録されていた。毎シーズンごとに番組冒頭の口上用にBGMが選ばれ、それを毎週聞いていたこともあり、その曲をストリーミングサービスで再生した瞬間に当時の記憶がフラッシュバックした。音楽を聞きながら読むことでセルフラジオ状態になり、読書体験として興味深かった。

 10年弱前の放送が収録されているにも関わらず、タイムリーな内容が多く驚く。(帯のコメント!!!)トランプがアメリカ大統領であること、東浩紀との初邂逅、AIの台頭、音楽におけるラティーノの活躍など、今とシンクロする内容や、先見の明は鋭さはあいかわらずである。なかでも平野歩選手が好きなラッパーが誰なのか?という話題に言及していて、流石の嗅覚すぎる。

 構成作家を置かず、セルフプロデュースで、毎週のように特集を企画し、選曲する。ときにはコント台本まで書いたりする、そのバイタリティに感服する。当時50代だったことにも驚きつつ、10年経った今、そのエネルギーがSNS上での不毛と言えるレスバに、吸い取られている現実がとにかく悲しい。おそらく多くのファンは「やっぱそうなっちゃったか…」と遠い目になるしかない。一方で、たいして知りもしないのに「菊地成孔はどうのこうの」としたり顔で綴っているポストを見るだけでムカついてしまう。そんなXのアルゴリズムの勝利とも言える状況にも辟易する。

 タイトルに掲げられているとおり、最終シーズンに突如として盛り上がったKing & Princeを取り上げたエピソードが多く採用されている。これはKing & Princeのファン(総称ティアラ)による売上を狙ったものらしいのだが、巻末で著者も触れているとおり、その分だけ落としてしまったエピソードがあると思うと悔やまれる。たとえば、韓流最高会議は歴史的にみて重要な資料であることは間違いないからだ。

 しかも、King & Princeのうち、本著で言及されていたメンバーは旧ジャニーズを抜けて、Number_i としてのびのびと活動している。キンプリに対する高評価を歴史に残す意味がないとは言い切れないものの、さすがにちょっと多い。ただ、今のNumber_iに対する音楽的、ひいては批評的な見立てはぜひ聞いてみたいところであり、番組が終わってしまったことが改めて残念に思える。

 最終シーズンの終盤は、番組が終わるのが悲しすぎて聞いていなかったので、今回初めてどんな内容だったのか知ったのだが、想像以上にエモーショナルだった。ニヒリスティックな著者ではあるが、8年間毎週エネルギーを注いできた番組が唐突に失われることを受け止めている様子から、間接的に痛みや悲しみが伝わってきた。

 ネットの影響力がここまで大きくなく、まだまだラジオの力が健在だった頃、そこで果たした役割についても振り返る機会になった。期せずして今回、熊本地震の発生に伴って、著者が「快涙と快眠を導くため」ということでYouTubeでプレイリストを提供しており、音楽の力を信じている著者ならではのアプローチだなと感じた。(レスバとトレードオフと考えると代償がデカすぎる気もするが。。。)

熊本の皆様へ
熊本の皆様へ 2

 その1つ目のプレイリストの最後にセレクトされている宮沢昭『野百合』からセレクトされた「Beyond the Flames」があまりにも凄すぎて。。。日本の音楽でこんな美しい曲、久しぶりに聞いたし、著者のアーカイブの懐の深さに恐れ慄いた。

 これに象徴されるように著者の選曲する力は並大抵のものではなく、この番組で知った音楽の数々は自分の中で大きな財産となっている。音楽に貴賎を設けず、かっこいいかどうかの審美眼を常に携えて選んでいることが改めてわかった。ストリーミングサービスとYouTubeを駆使すれば、ほぼすべての音源を聞くことが可能であり、それだけで楽しい。

 特に旧譜が中心のジャズアティチュード、ソウルBAR<菊>で紹介されていた音楽の数々は古びないエバーグリーンな作品の数々を著者が紹介してくれているから貴重な財産。巻末についている番組プレイリストを基に色々聞いていきたい。そして、今回聞いてぶち上がった曲たちを紹介して終わりにしたいと思います。はー、復活しないかな。(m年ぶりn回目)

 

 


0 件のコメント: