2026年8月8日土曜日

THE CROWD ele-king presents HIP HOP JAPAN

THE CROWD ele-king presents HIP HOP JAPAN 

 エレキングによる日本のヒップホップ特集号が久しぶりにリリース。ヒップホップ専門誌がない中で、各雑誌が定期的に特集を組んでくれるわけだが、今回も充実した内容で読み応えがあった。

 巻頭インタビューは舐達麻のBADSAIKUSH。別のヒップホップ雑誌『BLUEPRINT』でも彼が表紙を飾っており、近年リリースのない中でも、注目されていることが伺える。久しぶりに彼自身の言葉で現状を知ることができて興味深かった。特に印象的だったのが、家族、とりわけ子どもとの時間を大切にしているという話。彼のようなストリート上がりのラッパーが、それを率直に語れる状況そのものに社会の変化を感じた。その理由も至極納得できるもので、日々育児をする中では、どうしても煮詰まって面倒だと感じてしまう瞬間があるわけだが、この時間も永遠に続くものではないという現実を踏まえると、しっかり向き合っていきたいと思わされた。

 さらにBADSAIKUSHがInstagramのストーリーに投稿した内容を起点にインタビューが展開されていた点にも時代を感じた。ラッパーたちがもっとも気軽にポストしているだろうSNSのフォーマットだからこそ、そこから彼の興味の本質に迫ろうとするジャーナリズムを感じた。5lack『花里舞』を聞いていたというエピソードは今のシーンのあり方に対する重要な示唆に映る。

 全体的な特徴として、論考は抑えめで、現状のシーンについて対談形式で語るパートがその分増えている。紙媒体や活字離れが進み、ポッドキャストを含めて対談形式が隆盛している状況を踏まえての構成なのだろう。実際、対談はヒップホップと相性の良い語り口だと思う。論考になると客観的な視点や文体が求められるが、一人称の音楽であるヒップホップと必ずしも相性は良くない。一方、対談であれば、語り手のパーソナルな視点、意見が入り込むからこそ、言葉にアクチュアリティが生まれる。

 今の日本のヒップホップは細分化が著しく進み、もはや一人ですべてを把握することは困難だ。だからこそ、ラッパーであれ、ライターであれ、リスナーであれ、自分が何に価値を置いているのかを明確にしなければ、語りに説得力を持たせることは難しい。それぞれの対談を読んでいくと、個々の視点を通して現在の細分化したシーンの流れを包括的に捉えられる内容になっている。

 インタビューもそれぞれ興味深かった。つやちゃんによるReichiのインタビューは、『LIFE HISTORY MIXTAPE』以降を感じさせる社会学的なアプローチが垣間見えた。Reichiの「RAPSTAR CYPHER 2025」のバースは何回聞いても涙ぐんでしまうのだが、その背景を知ることができてよかった。また、目下最注目のプロデューサーであるYamieZimmerのインタビューは、自身もビートメイキングを手掛ける吉田雅史氏ならではの解像度で、彼のサウンドの奥深さの一端を知ることができた。あのサウンドの背景にDr.Dreがいることは、聞かないとわからないことだろう。(表紙のスペル、mが1つ多いので、もし二刷があれば修正して欲しい。)

 そして、SpiderWebのインタビューは『DAWN』におけるYOKO SQUADのインタビューと同様に、彼らを現在のシーンにマッピングする意味でも重要な機会と言える。実態をなかなか掴みづらい彼らのスタイルの片鱗を知ることができた。他にもOMG、凸凹。へのインタビューでは、若い世代がいかにキャリアを形成しているか、具体的に語られていて興味深かった。インターネットがデフォルトの世代であり、その利点を生かしながらも、ネットに閉じない現場主義がコロナ禍を経て花開いている。

 このとおり、いわゆるウェブで見かける定型的なインタビューではなく、ヒップホップの文脈を踏まえたハイコンテキストな内容が紙媒体として残っていくことは貴重である。

 エレキングらしさを感じたのは、VOLOJZA、AIWABEATZ、没、CHIYORIによる座談会だった。ヒップホップはナラティブの音楽である一方、さまざまなジャンルを取り込み、新しい音を鳴らし続ける音楽でもある。クラブミュージックからのアプローチで、どういう音の上でラップをしていくのか。その過程についてプレイヤーたちがここまで言語化してくれていることがありがたい。今のKid Fresinoがオルタナという話題が出ていたが、その文脈でTohjiをどう見ているのかは聞いてみたいところである。

 また、ラッパー自身による原稿が掲載されているのも新しい試みだ。しかも、valkneeと仙人掌という人選よ。インタビューを基に構成されることも多いラッパーによる原稿だが、2人の場合は自分自身の言葉で書いていることが伝わってきた。「ラッパーは何か言いたいなら曲で言え」という風潮はわからなくもないが、ラップで表現できないことも当然あるわけで、両者ともそれを踏まえた内容になっていた。

 日本のヒップホップはバブルと言われているものの、各自が点として存在するだけではカルチャーとして残っていかない。だからこそ、本著のような雑誌やYouTubeなど、点と点を繋ぎ、線として捉えようとする試みに意味がある。その時代の空気が抽出され、後世に残していくことができるからだ。

 そんなことを考えながら、自分でもZINEを作った。私がやっていることもまた、今の日本のヒップホップを点ではなく線として残していくための小さな試みである。弊ZINEを読んだ方は、ぜひ本著も合わせて読んでみてほしい。二つを行き来することで、現在の日本のヒップホップをより立体的に捉えられるはず…という宣伝で終わらせていただきます。

note
日本語ラップ日記 2025|YAMADA KEISUKE
昨年からnoteで『日本語ラップ日記』という形で、日本語ラップについて書いてきました。この度2025年にリリースされた作品についてまとめた『日本語ラップ日記 2025』というZINEを販売いたします。
著者: YAMADA KEISUKE note.com


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