![]() |
| ミルク・ブラッド・ヒート/ダンティール・W・モニーズ |
リリース当時に見た表紙が印象的でいつか読もうと思っていたら、気づけば時が経ち、ブックオフで見かけてサルベージした。アメリカで暮らす女性の観点を中心にした短編の数々に魅了された。
フロリダ出身の作家によるデビュー作の短編集となる。11編を収録しており、それぞれ独立しているので、どこから読んでも楽しめる仕様となっている。
とにかくストーリーテリングが見事だ。短編ながらも「この先どうなるの?」とグイグイ引き込まれつつ、その背景にあるテーマについても描かれている。エンターテイメント性とメッセージが高いレベルで両立しているので、新世代として期待される理由がよくわかる。
表題作をはじめ、シスターフッドを扱った短編が印象的だった。ただ連帯を描くのではなく、その中にある複雑な関係性や感情の機微まで余すことなく描いているからこそリアリティがある。その背景には、黒人であり、女性であり、フロリダで育った著者自身の経験が色濃く反映された登場人物の存在があるのだろう。
個別の話をすれば、表題作では色を通じた語り口が素晴らしかった。冒頭で乳と血に関する強烈な展開があるのだが、単に物語の起伏を作るためのショッキングな演出ではなく、終盤でしっかりと物語に帰結していく構成力の巧みさに唸らされた。
中年男性として最も刺さったのは「天国を失って」だ。妻の癌が再発し、拠り所を失った男が、バーテンダーの女性や若い男性客との関係を通じて自分の立場を保とうとする。加齢に伴ってメタ認知が鈍っていく様子を、ここまで容赦なく描かれると精神的に堪えた。最近話題の俳優間によるパワハラ問題を彷彿としたし、自分も「おじさん」と呼ばれる年齢なので、その危うさを自覚していかなければならないと感じた。
「欠かせない体」は妊娠初期に出産を逡巡する女性が主人公。ネット、SNSの発展に伴い、妊娠、出産、育児に関して情報が溢れる時代だからこそ、必要以上の不安に苛まれる姿が現代的だった。情報過多で身動きが取れなくなる状況は出産に限らず、あらゆる場面に通じる普遍性がある。そして、主人公の妹のセリフは何かと重たくなる足取りを軽くしてくれる効果があった。
うん、そうしてみなよ?自分のやってること、みんながみんな、きちんと分かってると思う?
「骨の暦」では、放浪する母親と専業主婦という対極的存在を配置し、女性の主体性を問う挑戦的な内容だった。子どもを祖母に預け、世界を旅する母親が、専業主婦に対して「家で飼いならされるのは動物だけだよ。動物だって本当は嫌なはず。」と言い放つのは極論すぎる。しかし、その極端さゆえに、バランスが大事であることが伝わってきた。また、周囲と異なることで向けられる視線について、子ども目線の瑞々しい感性で描いており、自分の子どもの頃を思い出した。最後にも乳、血、熱というタイトルに挙がっているワードを回収する語り口が鮮やかだった。

0 件のコメント:
コメントを投稿