ハーレム・シャッフル/コルソン・ホワイトヘッド |
地下鉄道、ニッケル・ボーイズと、これまで翻訳された作品はどれもオモシロかったコルソン氏なら間違いないっしょってことで読んだ。過去二作とかなり味づけが違っておりハードボイルドなクライムサスペンスでオモシロかった。訳者あとがきを読む限り既訳二作品はアフリカ系アメリカンの歴史とその苦境に相当フォーカスしており彼のキャリアの中で特別なものだと思う。なお本作でもプロットだけ追えば何てことないクライムサスペンスなのだが、アフリカ系アメリカンの苦境に思いを馳せつつNYの情景描写の巧みさに心を奪われた。
犯罪に手を染める父を持つ家具屋の店主が主人公。表向きは家族持ちの変哲もない父親だが裏の顔は盗品の横流しを生業とするハスラー。従兄弟が巻き起こすトラブルに巻き込まれたり、父親譲りの復讐心から悪事に手を染めてしまったりとNYのハーレムを舞台にして駆け引きが繰り広げられる。基本トラブル巻き込まれ型の話なので読者も入り込みやすくなっている。家具屋かつ建物好きという設定もあり、とにかく街の描写が最高だった。歴史を含めどういう建物か相当細かく描いているので読んでいるあいだ1960年代のNYを歩いているような気持ちになる。また終盤に不動産王との戦いに入っていく中ではNYの高層化した街の圧迫感と心情描写を重ね合わせていく点がかっこよかった。
物語が進むにつれて裏の顔が深くなっていく。親ゆずりのプライドゆえの復讐から始まり最後は銃撃に巻き込まれる大立ち回りに至る。従兄弟の破天荒な振る舞いの影響が大いにあるのだが、本人も「やれやれ」と言いながら、そのトラブルを乗りこなすことを楽しんでいるように見える。2 faceから見た世界の在り方として以下のラインが沁みた。
真人間対悪党。真人間はよりよいものをつかもうとする。ーーーよりよいものはあるかもしれないし、ないかもしれないーーーその一方で、悪党たちは、現在の仕組みをどう操作しようかと策謀をめぐらせる。こうなりうるという世界と、こうであるという世界。だが、それは白黒をはっきりさせすぎているいるかもしれない。真人間でもある悪党は山ほどいるのだし、法をねじ曲げる真人間も山ほどいる。
アフリカ系アメリカンと白人の権力勾配についてクライムな展開の中でもかなり意識的に描かれている。白人警官にアフリカ系アメリカンの子どもが殺されてしまったことで起こる暴動が物語中盤の軸として存在し、登場人物たちがさまざまな形で巻き込まれていく点が象徴的だった。当時は人種差別が蔓延っていた時代であり、その中でサヴァイヴするためには相当なコストを支払う必要があったことがよくわかる。またこういった差別に対して怒りを抱いた結果の暴動や略奪などが無秩序、暴力の象徴として語られるが、イスタブリッシュメント側の暴力的な再開発はどうなんだ?という問いかけは鋭い。つまり破壊という意味では同じだろうと。この論点は今の世界各国の都市にも言えることであり、金持ちがさらに金を産むためにスクラップ&ビルドするケースが多すぎる現状に対する著者の苦言に思えた。日本は耐震性という課題があるので致し方ないにせよ近年の東京なんて最たるものだ。そんな都市論にまでリーチしてしまうほど物語の本筋ではない部分でも細かく描き込んでいく。これが著者の書き手としての腕力であり並の作家と異なるところだ。次の翻訳作品も楽しみ。
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