2021年7月22日木曜日

ニッケル・ボーイズ

ニッケル・ボーイズ/コルソン・ホワイトヘッド

 以前に「地下鉄道」を読んでファンになったコルソン・ホワイトヘッドの新作。本作も前作同様にアフリカ系アメリカ人の人種差別がテーマで重たいけれどもエンタメとしても楽しめてオモシロかった。表紙がめっちゃかっこいいのでモノとしても最高。
 優秀で勤労勤勉なアフリカ系アメリカンの若者が大学へ行こうとした矢先、半ば冤罪のような形で少年院(ニッケル)へ投獄され、そこでの生活が中心に描かれる。入所前に公民権運動の最前線を目撃したりマーティン・ルーサー・キング牧師の演説をレコードで繰り返し聞いたり。単純にかしこくて真面目というだけではなく志が高い。そんな若者が自らの正義を貫いたにも関わらず少年院の管理者からの暴力に苦しむ姿が辛かった…さらにその不条理の世界へと順応していくのも辛い。キング牧師が非暴力での抵抗、敵を愛せと説いた言葉が、圧倒的な理不尽と暴力の前では子どもにとっては空虚なものでしかないのが痛烈だった。このラインとか特に。

彼らには平凡であるという単純な喜びすら与えられなかった。レースが始まる前から、すでに足を引きずってハンデを背負わされ、どうすれば普通になれるかわからずじまいだ。

 ところどころニッケル時代を回想する大人になった主人公の視点も入ってくるので、主人公がなんとか生きて脱出できたことは分かる作りになっている。したがって、読んでいるうちはこの地獄もいつか終わるものと思って読んでいた。しかし、思いもしない展開が用意されており終盤はページターナーっぷりが加速していった。序盤の伏線をめちゃくちゃ鮮やかに回収するラストの描写が圧巻だった。「来ないと思っていた未来が今ここに!」という感動が静かに立ち上がる。その時代を生きていない人間でもそれを体験できるのはフィクションだからこそ。本作は実際の少年院での虐待事件をベースに描いているので、それを広く知らしめるノンフィクションとしての機能も持ち合わせている。さらにはエンタメとしての魅力もバッチリなので非の打ち所なしの傑作!

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